俳句で使われる「寝もやらず」とは?

文語文法

先日参加した句会で、「寝もやらず」という言葉を使った俳句を見かけました。私も意味がすぐに分からなかったので、調べてみました。この表現は古くからありますが、現代でも情緒豊かな言葉として、俳句や文章の中で使われています。

「寝もやらず」の正確な意味と構造

「寝もやらず」は、「寝ることもできず」「眠れない」という意味です。
この言葉を古語として分解すると、以下のようになります。

品詞・意味補足
寝(ね)名詞/動詞「寝る」の連用形眠ること
係助詞〜までも、〜さえ(ここでは「〜ことも」)
やらず動詞「やる(遣る)」の未然形+打消の助動詞「ず」十分にできない」という意味を表します。「思いを遂げられない」といったニュアンスも含むため、ただ眠れないだけでなく、何かを待ち望んだり、心配したりするあまり眠れないという、情感のこもった状態を表現します。

「寝ることも十分にはできない」という、強い感情や状況によって眠れない状態を表している点が特徴です。



古文や俳句での使用例

古文では、不安や期待から眠れない状況を表現するためによく使われました。

  • 空恐しくて寢もやらず(いいようもない不安で寝ることができない)
  • 終夜寢もやらず(一晩中、寝ることができない)

俳句では、情景や心情を効果的に伝えるために、五音という短い音数で深い情感を表現できる「寝もやらず」が重宝されています。

  • 鮎釣りや解禁の夜を寢もやらず  有佳芙蓉
    • (鮎釣りの解禁を待ちわび、その前夜は期待に胸を膨らませて眠ることができないでいる。)
  • 待ちかねし臥待月に寢もやらず 山口昌子
    • (なかなか出てこない臥待月(ふしまちづき)をじっと待ち、そのために寝ることもできないでいる。)

「寝もやらず」を効果的に使うための視点

「寝もやらず」は、五音という短い音数で「寝ることもできず(八音)」と同じ意味を表現できるため、五七五の音数調整に非常に便利です。
この言葉を自分の俳句で使う際、特に初心者の方が意識すると良い視点をまとめました。

感情の「濃度」を意識する

「寝もやらず」は、単なる不眠ではなく、期待、不安、喜び、悲しみなど、何らかの強い感情が原因で眠れないという「情の深さ」を表現します。

  • 悪い例:「歯が痛くて寝もやらず」→単なる体調不良(情感が薄い)
  • 良い例:「初恋の文を待ち居て寝もやらず」→期待と不安が入り混じる強い感情(情感が濃い)

「なぜ眠れないのか」という理由が、より文学的・情緒的なものであるかを考えると、言葉が活きてきます。

季語との組み合わせで奥行きを出す

「寝もやらず」自体は季語ではありませんが、季語と組み合わせて使うことで、情景に奥行きが生まれます。

季語の例俳句の例込められた情感
卒業(春)卒業の答辞の暗唱寝もやらず緊張、不安、別れへの想い
花火(夏)大玉の開く響きに寝もやらず興奮、感動、一瞬の美しさの余韻
新涼(秋)新涼や父の病室寝もやらず心配、寂しさ、静かな夜の心細さ




音数(五七五)の調整として活用する

「寝もやらず」は五音です。同じ意味で五七五の字余り・字足らず、置く場所などを調整したい時に、以下のように使い分けができます。

意味音数調整の内容
寝もやらず5音五音であるため、上五・下五に置くことで、五七五のリズムの俳句が作りやすい
寝ることもなく7音七音であるため、中七に置くことでリズムが良くなる。
先頭に置いて句またがりにしても良い。
寝ることもできず8音
八音であるため、置く場所が難しいが、先頭に置いて句またがりにしてもリズムは良い。


このように、「寝もやらず」は、ただ意味を知るだけでなく、込められた情感の深さや、五七五を整える技術としても非常に有用な表現です。ぜひ、ご自身の俳句で使ってみてください。



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