俳句でみられる「寂しけり」の誤用について、説明します
寂しけり、はどこが誤用?
独り居に秋風吹きて寂しけり
このような使い方をした俳句が多くみられますが、「寂しけり」という使い方はしません
正しくは「寂しかりけり」です
なぜ「寂しけり」が誤用なのかを説明する前に、「寂し」の活用を見ましょう
「寂し」はシク活用ですので次のようになります
| 種 類 | 例 語 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
| シク活用 | 寂し | (-しく) | -しく | -し | -しき | -しけれ | -しかれ |
| -しから | -しかり | -しかる |
そうなると、「寂しけり」は「寂し(終止形)+けり」という形だと分かります
しかし、「けり」は連用形に接続する助動詞で、終止形には接続しません
ですから、「寂しけり」という使い方はされません
「けり」は連用形に接続するので、表を見ると「寂しく+けり」か「寂しかり+けり」で使うということが分かります
どちらを使えば良いのか、なのですが、今回のように助動詞が接続するときは下段の「寂しかりけり」を使います
シク活用やク活用などは、上記の表のように未然形・連用形・連体形が二段表示されていて、この下段を「補助活用」と呼びます。その後に助詞・助動詞がつながる場合に使われます
ですので、「寂しかり(連用形の補助活用)+けり(助動詞)」というように使います
今回は「寂しけり」という表現で記事にしましたが、このような使い方は、実は「シク活用」全体に見られます
例えば、「悔し」や「楽し」といった「シク活用」においても、同様に「悔しけり」「楽しけり」などのように間違った表現が使われていますですので、「寂しけり」だけを気を付けるのではなく、「シク活用」を使う場合は、常に気を付けるようにしましょう
「寂し」を使った表現
「寂しかりけり」
「寂しかりけり」の意味ですが、「けり」は詠嘆なので、「寂しかったのだなぁ」という意味になります
「寂しかりけり」を使った作品です
七八日畑に来りて働けば太陽もまた寂しかりけり
「いと寂し」
「いと寂し」という表現が見られますが、「いと」は「極めて・はなはだ」などの意味です
「いと寂し」を使った作品です
紅葉して身にしむ風もいと寂し
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