俳句にみる「咲かぬ」「咲きぬ」の違い

俳句や短歌を鑑賞していると、「咲かぬ」「咲きぬ」という言葉を目にすることがありますね。
一文字違いですが、その意味はまったく異なります。
誤解なく作品を味わうために、この二つの言葉の正しい意味と使い方を解説します。

「咲かぬ」の意味

「咲かぬ」は、花が咲いていない状態を表します。現代語の「咲かない」と同じ意味です。
これは、「咲く」という動詞の未然形「咲か」に、打消しの助動詞「ず」の連体形「ぬ」が接続してできた形です。

  • 構造: 「咲か(未然形)」+「ぬ(打消しの助動詞「ず」の連体形)」
  • 意味: 咲かない
  • 使い方:
    • 名詞を修飾する:「咲かぬ花」のように、直後にくる名詞を打ち消す形で使われることが多いです。
    • 文の終わりで使う:文の結びとして使うときは「花が咲かず。」のように、打消しの助動詞「ず」をそのまま使います。

「咲かぬ」を使った俳句

桐まだ咲かぬ山国山人と酔うて 金子兜太金子兜太の句集(Amazon) >>
戯れには咲かぬ茄子をじつとめづ 清塚和風
大輪は咲かず小菊の数多彩  中西明子中西明子の句集 (Amazon) >> 

これらの句では、「桐の花はまだ咲かない」や「気軽には咲かない茄子の花」「大輪の花は咲かないものだ」といった、花が咲いていない様子が表現されています。


「咲きぬ」の意味

一方、「咲きぬ」は、花がすでに咲いた状態を表します。現代語の「咲いた」と同じ意味です。これは、「咲く」の連用形「咲き」に、完了の助動詞「ぬ」が接続してできた形です。

  • 構造: 「咲き(連用形)」+「ぬ(完了)」
  • 意味: 咲いた
  • 使い方:
    • 主に文の結びで使われます。「花が咲きぬ。」のように、花が咲き終わったことを強調します。

「咲きぬ」を使った俳句

かたくりや希望は別の名で咲きぬ 五十嵐秀彦五十嵐秀彦の句集 (Amazon) >> 
手拭を噛めどあやめの濃く咲きぬ 鳴戸奈菜鳴戸奈菜の句集 (Amazon) >> 

これらの句では、希望が「別の名で咲いた」と表現されたり、あやめが「濃く咲いた」と描写されており、花が咲いたことを感動とともに伝えています。


まとめ

二つの言葉を混同してしまうと、作者が伝えたかった情景を正しく読み取ることができません。

  • 咲かぬ咲かない(打消し)
  • 咲きぬ咲いた(完了)

このように、「ぬ」の直前の形(「咲か」か「咲き」か)を意識して読むだけで、俳句の世界がより深く楽しめるようになります。
ぜひ、ご自身の俳句作りや鑑賞に役立ててみてください。


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