俳句における「合う・会う・逢う・遭う」の使い分け

「あう」という言葉には、「合う・会う逢う遭う」といったさまざまな漢字があり、それぞれ異なる意味やニュアンスを持っています。
俳句の中でこれらの言葉を使い分けることは、より繊細な表現につながります。


合う

「合う」は「ぴったり」と重なる

「合う」という漢字は、物事がぴったり一致することや、ふさわしいことを表します。

  • 一致・適合:二つのものが重なったり、条件に合致したりする
  • 釣り合い:バランスが取れている
  • 共通:同じ考えや気持ちを持つ


「合う」の例文

  • パズルのピースが合う
  • 条件に合う人を探す
  • 意見が合う


「合う」を使った俳句

俳句では、自然と景色の調和や、ある事柄がぴったり当てはまる様子を表現する際に使われます。
「合う」の意味を感じながら、俳句を鑑賞してみましょう

ぼんの凹私と蛇がよじれ合う  大畑等
もつれ合う蝶光芒となりて消ゆ  岩本多賀史
わたしの眼鏡がよく似合う母 チューリップ  広畑洋子 
オープンカフェの椅子が噛合う 菜種梅雨 永井絹子

ちなみに、「合う」は現在の私たちが使っている言葉(口語)です。俳句では昔の言葉(文語)を使うことがあり、文語では「合ふ」となります。

「合ふ」を使った俳句

昔の言葉の「合ふ」を使った俳句も見てみましょう

えご咲くや神々路傍に抱 いだき合ふ 水野真由美 水野真由美の句集 (Amazon) >> 
かはほりや誘ひ合ふたび墮落せり  平瀬元平瀬元の句集 (Amazon) >> 
ねぢ花に合ふねぢまはし空にはある  望月英男
ほろほろと泣き合ふ尼や山葵漬  高浜虚子高浜虚子の句集 (Amazon) >> 


会う

「会う」は「顔を合わせる」

最も一般的に使われる「会う」は、人と顔を合わせること、そして集まることを意味します。

  • 顔を合わせる:人と直接会う
  • 集合:集会やパーティーなどで集まる


「会う」の例文

  • 友人と駅で会う
  • みんなで会う約束をする
  • 久しぶりに家族に会う

特別な意味合いを持たず、日常的な人との交流を表現する際に適しています。

「会う」を使った俳句

会う」の意味を感じながら、俳句を鑑賞してみましょう

いっせいに毛虫孵りて毛虫に会う  池田澄子池田澄子の句集 (Amazon) >> 
きみと会う九月丸太ン棒をわたり  津沢マサ子 津沢マサ子の句集 (Amazon) >> 
さねかずら二十歳の父の字に出会う  加藤知子加藤知子の句集 (Amazon) >> 
会うたびに無口になる父鯖を裂く  坪内稔典坪内稔典の句集 (Amazon) >> 

ちなみに、う」は現在の私たちが使っている言葉(口語)です。俳句では昔の言葉(文語)を使うことがあり、文語では「会ふ」となります。

「会ふ」を使った俳句

昔の言葉の「」を使った俳句も見てみましょう

石鹸玉生まれてすぐに出会ふ風 木幡忠文木幡忠文の句集(Amazon) >>
木の芽風人に会ふ目の生き生きと  前田倫子前田倫子の句集 (Amazon) >> 
涅槃図に鳴きし鼠と野路に会ふ  野見山朱鳥野見山朱鳥の句集 (Amazon) >> 
濃霧ゆく乳房張りたる山羊に会ふ  久保田慶子久保田慶子の句集 (Amazon) >> 



逢う

「逢う」は「運命的な出会い」

「逢う」は、運命的な巡り合わせや、偶然の出会いを強く意識させる言葉です。多くの場合、特別な人との再会や、深い縁を感じさせる場面で使われます。

  • 再会:長い期間を経て、再び顔を合わせる
  • 運命的な出会い:偶然とは思えないような、特別な出会い


「逢う」の例文

  • 遠い旅先で旧友に逢う
  • 運命の人に逢う

「会う」が日常的な表現であるのに対し、「逢う」はロマンチックで情緒的なニュアンスを持つため、俳句でも感情を込めた表現によく使われます。


「逢う」を使った俳句

逢う」の意味を感じながら、俳句を鑑賞してみましょう

夜桜へ魔に逢うためか急いでいる  松下けん
日と月と紫雲丹の上に逢う  五島高資五島高資の句集 (Amazon) >> 
栗色の瞳に逢うまでの木枯か  草野眞理子
海で訣れた夕日とくらい死角で逢う  隈治人 

ちなみに、「逢う」は現在の私たちが使っている言葉(口語)です。俳句では昔の言葉(文語)を使うことがあり、文語では「逢ふ」となります。

「逢ふ」を使った俳句

昔の言葉の「逢ふ」を使った俳句も見てみましょう

己の影とまた逢ふ蝶や草の上 木幡忠文木幡忠文の句集(Amazon) >>
夜桜にまみれてをればははに逢ふ  軽部美喜枝軽部美喜枝の句集 (Amazon) >> 
待つ人に待たされてゐて月に逢ふ  泉田秋硯泉田秋硯の句集 (Amazon) >> 
早乙女に昔のひとのごとく逢ふ  田中裕明田中裕明の句集 (Amazon) >> 




遭う

「遭う」は「予期せぬ出来事」

「遭う」は、望ましくない出来事不運な状況に直面することを意味します。

  • 災難:事故や災害などの不幸に直面する
  • 予期せぬ事態:望まない事柄に出くわす


「遭う」の例文

  • 事故に遭う
  • 盗難に遭う

「会う」「逢う」が人との出会いを表すことが多いのに対し、「遭う」は災難や不運といった出来事に対して使われるのが特徴です。



「遭う」を使った俳句

遭う」の意味を感じながら、俳句を鑑賞してみましょう

桃買って予報通りの雨に遭う   松井国央松井国央の句集 (Amazon) >> 
豆撒いて隣の街で鬼と遭う   中川屺城子

ちなみに、「遭う」は現在の私たちが使っている言葉(口語)です。俳句では昔の言葉(文語)を使うことがあり、文語では「遭ふ」となります。

「遭ふ」を使った俳句

昔の言葉の「遭ふ」を使った俳句も見てみましょう

裏道を逃げたる途中の蛇に遭ふ   佐藤文子佐藤文子の句集 (Amazon) >> 




俳句の言葉、使い分けできていますか?

この記事で言葉の違いを学んだように、俳句には他にも似て非なる言葉が数多くあります。
あなたの句をさらに磨き上げるために、これらの言葉の使い分けをぜひチェックしてみてください。

俳句で注意をしたい言葉
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