俳句を作る上で、「説明ではなく、描写をしましょう」とよく言われます。しかし、「説明」と「描写」の違いがハッキリと分からないという方も多いのではないでしょうか?
この記事では、俳句初心者の方にも分かりやすく、説明と描写の違いを解説していきます。さらに、なぜ俳句では描写が大切なのか、その理由についても詳しくご紹介します。
説明と描写、どこが違うの?
まず、説明と描写の違いを表にまとめた上で、それぞれの言葉の意味を詳しく見ていきましょう。
区分 | 説明 | 描写 |
読者のイメージ | 映像が見えない | 映像として見える |
文章の目的 | 理解させる | 想像させる |
伝え方 | 答えを教える | 答えに導く |
感情表現 | 「○○が悲しい」「●●が嬉しい」と書く | 「悲しい」「嬉しい」と書かずに「悲しさを描く」「嬉しさを描く」 |
物語との関係 | 物語を大づかみに述べる | 物語の特定の部分を詳しく伝える |
時間の流れ | 細かいところは省略し、長い時間の物語を伝える | 詳しく情景を伝えるため、その間物語はまったく(ほとんど)進まない |
文章の動き | スピーディー | スローモーションかストップモーション |
説明とは
説明とは、ある事柄を分かりやすく伝える行為や方法です。例えば、「桜が風に吹かれて散った」という文章は、その時の事柄を説明しています。
相手にその事実を伝えることや、概念を定義することなどが目的に使われます。
描写とは
描写とは、言葉を使って、あるものや情景をありありと描くことです。例えば、「夕焼け空が燃えるように赤い」という文章は、夕焼けの情景を描写しています。描写は、読者の五感に訴えかけ、その情景を想像させることを目指します。
なぜ説明よりも描写がよいの?
俳句は、たった17文字の中に、季節や情景、作者の心の動きなどを凝縮して表現する短い詩です。限られた文字数の中で、読者の心に深く響く作品を作るためには、説明よりも描写の方が効果が高いと言えます。
先ほど、説明は「ある事柄を分かりやすく伝える行為」と書きました。ある事柄については読者に正確に伝わるのですが、それ以上のことは伝わりません。
描写は読者の五感に訴えかけることで、読者にその情景を追体験させ、その情景を見た時の感情をわき起こすことができます。
描写によって得られる効果には、次のものがあります
- 読者の想像力を刺激する: 描写によって、読者は作者が描きたい情景を自分の頭の中で鮮やかにイメージすることができます。
- 感情を伝える: 描写を通して、作者の心の動きや感情を間接的に伝えることができます。
- 奥深い世界観を創り出す: 具体的な描写を重ねることで、読者は作者が作り出した世界観に深く入り込むことができます。
- 言葉の持つ力を最大限に引き出す: 適切な言葉を使い、五感を刺激することで、言葉の持つ力を最大限に引き出すことができます。
説明と描写の例文
説明 | 描写 |
---|---|
私は悲しい。 | 夕焼け空を見ながら、私は涙を流した。 |
部屋は静かだった。 | 聞こえるのは、時計の秒針の音だけ。部屋は静まりかえっていた。 |
花が咲いた。 | 桜の花が満開になり、あたり一面がピンク色に染まっていた。 |
このように比較をしてみると、違いが分かると思います。
そして、これを俳句にあててみると、「説明的な俳句」と言うものがどういうものか分かると思います。
「桜が咲いた」「コスモスが揺れた」「バラが赤い」
このようなことだけを言っている俳句は、説明的な俳句ということになります。
さまざまな描写の種類
一口に描写と言っても、対象や視点、表現方法によって、様々な種類があり、様々な表現が可能ですので、ここでは7つの描写のテクニックを紹介します。
描写の種類と特徴
1. 感覚描写
五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)を刺激するように表現することで、読者に鮮やかなイメージを与えます。
- 例:
- バラの香りが鼻腔をくすぐる
- 小鳥のさえずりが遠くから近づいてくる
- 冷たい雨が頬を打つ
2. 客観描写
個人的な感情や解釈を入れずに、ありのままの事実を客観的に描写します。
ただ、この表現は、場合によっては、ただの説明になってしまうことがあります。
説明にさせないためには、ありのままの事実を客観的に描写するものの、その情景から寂しさや嬉しさといった感情が刺激されるような内容を書くと良いと言えます。
- 例:
- 桜の木の下に人が二人立っている
- 机の上に本とペンがある
3. 自然描写
自然の風景や現象をありのままに表現します。
これも説明句になりやすいと言えます。五感を刺激するように表現をしたり、比喩表現を使うことで、説明的な表現を避けることができます。
- 例:
- 夕焼け空が燃えるように赤い
- 雪がしんしんと降り積もる
4. 心理描写
人物の心の動きや感情を言葉で表現します。
- 例:
- 孤独を感じている
- 喜びで心が震える
5. 情景描写
特定の場所や状況を、視覚的に描き出す描写です。
- 例:
- 静かな湖面に月が映る
- 満開の桜並木
6. 外面描写
人物の外見や行動を通して、その人物の性格や心理を間接的に表現します。
- 例:
- 男はうつむき加減に歩いていた
- 彼女はいつも笑顔を絶やさない
7. 内面描写
人物の心の内、感情、思考などを直接的に表現します。
- 例:
- 私は未来が不安だ
- 心が晴れない
俳句で様々な描写に挑戦してみよう!
これらの描写のテクニックを、俳句作りに活かしてみましょう。
描写で俳句を作るためのコツ
描写で俳句を作るのは最初は難しいと思いますが、次のことを意識すると作りやすいと言えます。
- 五感を意識する: 視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感を意識して、具体的な言葉を選ぶ。
- 比喩を使う: 「~のように」「~ようだ」といった比喩を使う。(ただ、テクニックとしては難易度が高いため、上手くいくことは少ないですが・・・)
- 読者に問いかける: 読者の想像力を刺激するような言葉を選び、例えば、問いかけるような内容で作る
- 言いきらない:すべてを言い切らずに、余白を意識して作る。
まとめ
俳句では、説明よりも描写が大切です。描写によって、読者は作者が作り出した世界に深く入り込むことができ、より豊かな体験を得ることができます。
最初は難しく感じるかもしれませんが、色々な句を読んで、自分なりに言葉を選んでみましょう。
描写で俳句を作れるようになると、あなたの作品の質が一段上になるはずです。