「月」を歳時記で調べると、「月」の他に「十六夜の月(いざよいのつき)」や「初月(はつつき)」と言った(子)季語も紹介されています
聞きなれない季語であるため、初めのうちは戸惑ってしまうのではないでしょうか
ここでは、初めて目にする季語でもすぐ使えるように、季語と共に意味をまとめています
意味を理解して使えるようになると、俳句の幅も広がるはずですし、俳句が楽しくなります
単に「月」といえば秋の季語なのですが、月は四季のそれぞれに別の顔を見せます
季節ごとの月の微妙な違いも理解しておくと良いと思います
(秋の季語の)月
月(つき)
俳句では、単に「月」という場合、秋を指す
秋の月(あきのつき)
秋、澄んだ夜空に輝き冴えている月
単に「月」と言っても俳句では秋を指すので、「秋」を冠する必要はないのではないか?という意見もある
俳句で「秋の月」を使うときは、その辺りも考えて使ったほうが良い
孀娥(そうが)
月の異名。もとは仙女の名
月の輪(つきのわ)、月輪(げつりん)
特に、満月を指す
(秋の季語の)月 ─形の違い─
新月(しんげつ)
一日目の月
太陽の方角にあって見られない月
二日月(ふつかづき)
二日目の月
糸のように細い月
三日月(みかづき)
三日目の月
太陽がしずむころ、西の低い空に見つかります
上弦の月(じょうげんのつき)、弓張月(ゆみはりづき)
七日目の月
満月まんげつを縦たてに半分に切った形
弓の形に似にているところから「弓張月」と呼よばれ
夜中に西の空にしずむときに弓の弦つるが上にあります
十三夜(じゅうさんや)
十三日目の月
満月まんげつまであと少しの月
古くから豆や栗くりをお供そなえしてお月見が行われてきました
これから満みちていく様子が縁起の良よい月として親しまれてきました
満月(まんげつ)、十五夜(じゅうごや)
十五日目の月
もっとも丸い状態になった月
太陽の光が月全体を照てらしているので月の明るさも一番強い
満月だけは一晩ひとばん中見ることができるのも大きな特徴
十五夜とも呼よばれる
十六夜(いざよい)、十六夜の月(いざよいのつき)、いざよふ月(いざよふつき)
十六日目の月
月の出が十五夜より少しおそくなっているのを「月がはずかしがっている」と見立て「十六夜」と呼ばれています
新月に向かって、少しずつ欠かけていく月
立待月(たちまちづき)
十七日目の月
十六夜よりもさらにおそく、外に立って待っていたことから「立待月」と呼よばれる
新月に向かって、少しずつ欠かけていく月
居待月(いまちづき)
十八日目の月
満月まんげつを境さかいに月の出が次第におそくなり
座すわって月の出を待つことから「居待月」と呼よばれる
寝待月(ねまちづき)、臥待月(ふしまちづき)
十九日目の月
この月はさらにおそくなり、寝て月の出を待つことから「寝待月」と呼よばれる
夜が明けるまで輝かがやいており、太陽がのぼる前まで西の空で白くすきとおったように見えます
更待月(ふけまちづき)
二十日目の月
夜が更けてから月の出を待つところから「更待月」と呼ばれる
下弦の月(かげんのつき)
二十三日目の月
おそい時間にあらわれる月
左側半分が輝かがやいて見える
弓張月のひとつ
弓の弦つるを下にした形で地平に沈む
夜中の12時前後にのぼるので、観察するためにはおそくまで起きていないと見られない
二十六夜月(にじゅうろくやづき)
二十六日目の月
夜中の1時から3時の間にのぼり、夜が明けるころに空で白く輝かがやきます
三日月とは逆を向いており、うかんでいる場所も西ではなく東です
明けの三日月(あけのみかづき)
二十九日目の月
実際じっさいに私わたしたちが見られるのは、この日までの月
明け方に輝かがやいて見えるので「明けの三日月」と呼ばれる
半月(はんげつ)
半円形をした月。弦月。弓張り月とも
(秋の季語の)月 ─特定の時期の呼び方─
待宵月(まちよいづき)、待宵の月(まつよいのつき)
旧暦七月 十四日の月
十五夜の前日で、満月を待つところから
盆の月(ぼんのつき)
旧暦七月 十五日の月
中秋の名月の一カ月前の満月
盂蘭盆会の夜であるため、特別な感慨を抱かせる
中秋の名月(ちゅうしゅうのめいげつ)、十五夜(じゅうごや)
旧暦八月 十五日の満月
十五夜とも呼ばれています
初月(はつつき)
旧暦八月初めの月
後の月(のちのつき)、後の名月(のちのめいげつ)、名残の月(なごりのつき)、豆名月(まめめいげつ)、栗名月(くりめいげつ)
旧暦九月 十三夜の月
秋最後の月であることから名残の月
また豆や栗を供物とすることから豆名月、栗名月ともいう
月待ち(つきまち)
月が昇るのを待って多くの人々が集まり、供え物をしたり拝んだりする行事。三日月待ち、十三夜待ち、十六夜待ち、などがある
(秋の季語の)月 ─時間帯による違い─
有明の月(ありあけのつき)、有明月(ありあけつき)、残月(ざんげつ)
夜明け前、東の空から昇る二十六日前後の細い月を指す場合が多い
古くは朝立ちの旅人が有明の月の影を踏んで出立したというような風情を詠われた
暁月(ぎょうげつ)
暁の空に残っている月
普通、下弦から二十六~二十七日月くらいをさす
有明よりも、空が少し明るくなった時間帯
暁月夜(あかつきづくよ)
暁月は月そのもののことだが
暁月夜は、暁月がみられる”夜”を指す
昼の月(ひるのつき)
青い空に、白雲のように浮かぶ月
上弦の月は昼頃に東の空から昇ります
昼過ぎから夕方にかけて、東~南の青空の中で簡単に見つけることができます
斜月(しゃげつ)
斜めに照らす月
西に沈もうとしている月
名残の月(なごりのつき)
夜明けの空に残る月
旧暦 九月十三夜(仲秋の名月の名残という意味か)の月をいう時もある
夕月(ゆうづき)
夕空に残る月。三日月が沈む時間が夕方であることから、三日月を指すことが多い
夕月夜(ゆうづきよ)
夕月のある”夜”を指す
宵月(よいづき)
宵(日暮れの頃)の間だけ出ている月
宵月夜(よいづきよ、またはよいづくよ)
宵月のある”夜”を指す
朝月日(あさつきひ)
朝日の出た向かいに、月の残っていること
夕月日(ゆうつきひ)
秋の夕方の月
(秋の季語の)月 ─見え方の違い─
素月(そげつ)
白く冴えた月、名月
白月(はくげつ)
白く輝く月、冬の寒々しい月
明月(めいげつ)
曇りなく済みきった満月
朗月(ろうげつ)
澄みわたった月
皓月(こうげつ)
白く照り輝く月。名月をさすことも
月白(つきしろ)
月が出ようとする時、空が明るくしらんで見えること
月光(げっこう)
月のひかり
月明り(つきあかり)
月の光。また、月の光で明るいこと
月光環(げっこうかん)
月のまわりに現れる光冠
月影(げつえい)
月の光
月の光にてらし出された人や物の陰影
薄月(うすづき)
薄い雲にさえぎられて、ほのかに光る月。 薄雲のかかった月
月の蝕(つきのしょく)、月食(げっしょく)、月蝕(げっしょく)
月が地球の本影の中に入って、月面の一部または全部が暗くなる現象
月の暈(つきのかさ)、月暈(つきがさ・げつうん)
月の周囲に現れる輪状の光暈。月の光が細かい氷の結晶からできている雲に反射・屈折して起こる
(秋の季語の)月 ─空の状況による違い─
霽月(せいげつ)
雨上がりの月
雨月(うげつ)
名月の夜、雨が降って月が見えない様
無月(むげつ)
名月の夜、むら雲がかかり月が見えないが、雲のどこかがほのかに明るくなっている様
薄月(うすづき)
薄雲がかかって、ほのかに光る月
月の鏡(つきのかがみ)
晴れわたった空にかかる満月。形を鏡と見立てた語
(秋の季語の)月 ─映った月─
田毎の月(たごとのつき)
小さく区切られた階段状の水田(棚田)の一つひとつに映る月影
湖月(こげつ)
湖に映った月
水月(すいげつ)
水面に映った月
(秋の季語の)月 ─心の状態を含めたもの─
胸の月(むねのつき)、心の月(こころのつき)
悟りを開いた心を、清く澄む月にたとえていう
心のさまを名月にたとえて言うため、季語となる
真如の月(しんにょのつき)
真如が一切の迷いを破ることを月が闇を照らすのにたとえた言葉
心のさまを名月にたとえて言うため、季語となる
(秋の季語の)月 ─伝説などに関連するもの─
月の桂(つきのかつら)、月桂(げっけい)
中国の伝説。月に生えているという桂の木
桂男(かつらおとこ)
中国の伝説。月に住んでいるとされる伝説上の住人
月の兎(つきのうさぎ)、玉兎(ぎょくと)
月に兎がいる、という伝承に登場する兎
月の蛙(つきのかえる)
月にいるとされる蛙のこと
嫦娥(じょうが・こうが)
中国神話に登場する人物。后羿の妻
月の鼠(つきのねずみ)
象に追われた人が木の根を伝わって井戸に隠れたところ、井戸の周囲には4匹の毒蛇がいてかみつこうとし、また、木の根を黒と白2匹の鼠がかじろうとしていたという「賓頭盧 (びんずる) 説法経」にある説話で、象を無常、鼠を昼と夜、毒蛇を地・水・火・風の四大にたとえるところから
月日の過ぎゆくことを言う
月の都(つきのみやこ)
月の中にあるといわれる宮殿。月宮殿
月宮殿(げっきゅうでん)、月宮(げっきゅう)
伝説に登場する月にあるとされる宮殿
(秋の季語の)月 ─その他─
遅月(おそづき)
月の出の遅いこと
満月を過ぎると、月の出は日に日に遅くなってゆく
月の出(つきので)
月が東から出ること。また、その時刻
月の入り(つきのいり)
月が西に沈むこと。また、その時刻
月夜(つきよ)
月の照っている夜
月の美しい夜
月の顔(つきのかお)
月のおもて。月の表面
袖の月(そでのつき)
涙にぬれた袖に映った月
月の出潮(つきのでしお)
月が出るとともに満ちてくる潮
月渡る(つきわたる)
月が渡ること
月下(げっか)
月の光がさしている所
(冬の季節の)月
冬の月(ふゆのつき)
冬の月の光には、研いだ刃物のような鋭さがある
ぞくっとする美しさの前に、身じろぎすらできなくなるような気がする
寒月(かんげつ)
寒の内の月に限らず、寒空にかかる月一般を指す
寒さによる心理的な要因もあってか荒涼とした寂寥感が伴う
雲が吹き払らわれた空のすさまじいまでの月の光には誰しもが心をゆすられる思いがあるだろう
月冴ゆ(つきさゆ)
月冴ゆとなると、通常の冬の月よりも寒々しさが一層増す
月の寒々しさを詠みたいときの表現の一つである
月氷る(つきこおる)
月氷るともなると、通常の冬の月よりも寒々しさが一層増す
月の寒々しさを詠みたいときの表現の一つである
冬三日月(ふゆみかづき)
眉のように細い月であり、特に冬三日月は薄氷のごとく
いまにも壊れてしまいそうなもろさがある
月天心(つきてんしん)
冬の月は高度が高く、真上を通るように見えることから月天心と呼ばれる
ただ、高度が高いのは満月であり、冬三日月になるほど高度は低くなる
(春の季節の)月
朧月(おぼろづき)
春の夜の朧な月をいう
澄んだ秋の月に対し、水分の多い春の季節の月は水蒸気のベールがかかったように見える
秋の煌々と照る月とは対照的に、滲んだ輪郭で重たげに上る月である
暈のかかることもある(月暈(ゲツウン))
ただし、月暈は雨の降った後の月ではよく見られるため、それだけで季語になることはない
月朧(つきおぼろ)
朧月と同義である
朧月は ”朧の月” というように、月そのものを指しているが
月朧は ”月が朧に見える” 状態を指している
朧月 = 朧月(名詞)
月朧 = 月(名詞)朧(形容動詞)
名詞で詠むか、形容動詞を含めて詠むかの違いとも言える
朧月夜 (おぼろづきよ)
「おぼろづきよ」または「おぼろづくよ」と読む
朧月の出ている夜を指す
朧月は月そのものを指すが、朧月夜は朧月の出ている夜を指す
朧夜(おぼろよ)
朧月夜を略した語
淡月(たんげつ)
朧月と同義である
光の薄い(淡い)月ということから淡月と呼ばれる
句の中で光の濃淡が重要な場合には”淡月”を使う
春の月(はるのつき)、春月(しゅんげつ)
春の夜に見られる月
春満月(はるまんげつ)
春の夜に出る満月
春月夜(はるづきよ)
「はるづきよ」または「はるづくよ」と読む
春月の出ている夜を指す
春月は月そのものを指すが、春月夜は春月の出ている夜を指す
(夏の季節の)月
夏の月(なつのつき)
夜半の眼ざめに見る月
短夜の曙の闇に残る月である
暑さを避け涼むために、夏は月を見る機会が多い
暮時に地平に昇る夏の月は、赤々と火照るような感じがする
夏の霜(なつのしも)
夏の月影を霧に見立てて”夏の霜”という
月涼し(つきすずし)
夏の夜といっても暑苦さに変りはないが、暑い昼が去り
夏の夜空に青白く輝く月には涼しさを感じさせる
梅雨の月(つゆのつき)
雨雲に閉ざされがちな梅雨に、ふと現れる月である
長い間月を見えない日が続くと、今日が満月であったかと驚くこともある
多くは雲に見え隠れする
その他
季節ごとの月の軌道
月の位置は、同じ季節でも、満月と新月によって、通る軌道が変わります
新月
春・秋分 | 南中高度は中間 (太陽と同じく赤道付近にいるため) |
夏至 | 南中高度は高い (夏の太陽の軌跡をたどるため) |
冬至 | 南中高度は低い (冬の太陽の軌跡をたどるため) |
満月
春・秋分 | 南中高度は中間 (太陽と同じく赤道付近にいるため) |
夏至 | 南中高度は低い (冬の太陽の軌跡をたどるため) |
冬至 | 南中高度は高い (夏の太陽の軌跡をたどるため) |
季節ごとの月の出ている時間
春・秋分 | 18時~6時 |
夏至 | 19時~5時 |
冬至 | 17時~7時 |
(※満月の出ている時間)
月の有名な俳句
月の有名な俳句はいろいろありますが、個人的に好きなものは次の2つです
やはらかき身を月光の中に容れ 桂信子
大原や蝶の出て舞ふ朧月 内藤丈草
下の句、三段切れでこれほど上手い俳句は見たことがない