俳句をもっと奥深く!「たり・をり」を「もし」に変える効果

「蕎麦待ちの列は蜥蜴に乱れたり」という句を例に、「たり・をり」を「もし」に変えることで、俳句がどのように変化するかを解説します。

なぜ「たり・をり」を「もし」に変えるのか?

「たり・をり」は、「~している」という意味で、動作の進行などを表します。
そのため、俳句に用いると、説明的な印象が強くなり、読者の想像力を妨げてしまうことがあります。

一方、「もし」は、「も(~もまた)し(する)」という意味になり、同様の事柄が他にある、という意味を表します。
つまり、この言葉を使うことで、もう一つの事柄が余韻となり、読者に様々な解釈を促すことができます。

それぞれ比較してみましょう
蕎麦待ちの列は蜥蜴に乱れたり  ← 乱れている
蕎麦待ちの列は蜥蜴に乱れもし  ← 乱れもしている

「乱れもし」のほうは、蕎麦待ちの列は何かに乱れていたけれど、蜥蜴が現れたことでも乱れた。という意味になります。
「何かに乱れていた」部分は俳句には書かれていません。そのことが、読者に想像を広げさせることにつながります。

「たり・をり」と「もし」の違い

語尾意味俳句に与える印象
たり・をり 動作の進行などを表す説明的
もし同様の事柄が他にある、という意味を表す 読者の想像力を刺激

「たり・をり」の問題点

「たり・をり」は、文末に付け加えることで、かえって表現が冗長になることがあります。例えば、「乱れたり・乱れをり」という場合、「乱れる」という動詞が重複し、かえって意味がぼやけてしまうことがあります。
俳句は、限られた文字数の中で最大限に表現するため、無駄な言葉は避けたいものです。このような観点から、「たり・をり」の使用は慎重に行うべきでしょう。

「もし」に変えることで得られる効果

  • ある事柄の想像が広がる: 「乱れもしている…」という表現は、他の事柄があることを暗示させ、それを読者に想像させる余地を与え、句に奥行きを生みます。
  • 言葉の響きが柔らかくなる: 「たり」「をり」よりも「もし」の方が、言葉の響きが柔らかく、優しい印象を与えます。

「もし」の構造

「もし」は、係助詞の「も」に、「す(為)」の連用形の「し」がついたものです。
「も」の意味は、~もまた。
「し」の意味は、~する。

なので、「もし」の意味は、~もまたする。

吹かれもし(吹かれもする)
歩きもし(歩きもする)

具体的な例

「たり」を「もし」に変える
夕風に 桜の花の 吹かれたり  →  夕風に 桜の花の 吹かれもし
風に吹かれているという事実だけでなく、揺らされている、散らされている、といった別の事柄もそうぞうさせますし。桜の花びらが吹かれていることに対する、作者の思いが滲むようにも感じられます。

「をり」を「もし」に変える
晩秋の 川は静かに 流れをり  →  晩秋の 川は静かに 流れもし
「流れをり」は、今その時を読んでいる印象があるのに対し、「流れもし」は、今だけでなくその前から流れが続いているように感じられ、自然の営みの大きさも読者に感じさせます。

「もし」を使う際の注意点

  • すべての句に当てはまるわけではない: 全ての「たり・をり」が「もし」に変えられる分けではありません。句の状況や表現したい内容に合わせて使い分けましょう。
  • 頻繁には使わない: 「もし」で終わらせる俳句を頻繁に使うと、マンネリとなり。読者は飽きてしまいます。
  • 万能ではない:「もし」は万能ではありません。「もし」に変えたから良くなる、という訳ではありません。その辺りの見極めは注意して行いましょう。

まとめ

「たり・をり」を「もし」に変えることは、俳句に奥行きと深みを与えるための有効な手段の一つです。 このテクニックを参考に、あなたの俳句の世界を広げてみてください。



タイトルとURLをコピーしました