俳句では、十七音を声で出して読んだときの、音の響きを大切にすることがあります
音の響きって何?と思うかもしれませんが、難しいことはありません
言葉を組み立てている音の基本、つまり母音の「あいうえお」の響きを大切にするということです
普段何気なく聞いている、母音の「あいうえお」ですが
それぞれの母音には日本人に共通したイメージがあります
そのため、母音の出現頻度が、一句の印象にも大きな影響を与えているのです
ここでは、「あいうえお」のそれぞれが持つイメージを紹介します
そして、「あいうえお」が句に与える影響を、実際の句を見ながら、感じていきたいと思います
まず大まかにですが、母音の「あいうえお」には、次のイメージがあります
「あ」 開く・広がる
「い」 命・積極性
「う」 閉じる・内部の充実
「え」 伸びる
「お」 偉大・重い
これらのイメージは、あ段・い段・う段・え段・お段、それぞれの段に共通したイメージとして現れてきます
「あ」 開く・広がる
あ段の子音「か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」には概ね共通して
「朝、輝く、栄える、高い、晴れる、初風、八雲」などのように開き広がるイメージを読者に与えます
「い」 命・積極性
い段の子音「き・し・ち・に・ひ・み・い・り・ゐ」には概ね共通して
「息、生きる、賑やか、決める、行く、人、水」などのように命の元、積極性のイメージを読者に与えます
「う」 閉じる・内部の充実
う段の子音「く・す・つ・ぬ・ふ・む・ゆ・る・う」には概ね共通して
「包む、組む、沼、含む、群れる、繋ぐ、膨れる」などのように閉じて内部が充実するイメージを読者に与えます
「え」 伸びる
え段の子音「け・せ・て・ね・へ・め・え・れ・ゑ」には概ね共通して
「枝、栄誉、毛、背、手、根、願い、芽」などのように元から伸びていくイメージを読者に与えます
「お」 偉大・重い
お段の子音「こ・そ・と・の・ほ・も・よ・ろ・を」には概ね共通して
「凝る、沿う、止まる、乗る、剛健、王国、長」などのように重いイメージや、偉大で着実なイメージを読者に与えます
このようなイメージは普段は意識しませんが、多くの人が心の中の奥底にあるものです
母音のイメージが俳句にどのようなイメージを与えるのか
芭蕉の句で確認してみましょう
「あ」から始まる句 (開く・広がる) |
あかあかと日はつれなくも秋の風 秋風に折れて悲しき桑の杖 あけぼのや白魚白きこと一寸
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「い」から始まる句 (命・積極性) |
生きながら一つに氷る海鼠かな いざ共に穂麦喰はん草枕 稲妻や顔のところが薄の穂
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「う」から始まる句 (閉じる・内部の充実) |
うたがふな潮の花も浦の春 打ち寄りて花入探れ梅椿 梅が香にのつと日の出る山路哉
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「え」から始まる句 (伸びる) |
枝ぶりの日ごとに変る芙蓉かな 枝もろし緋唐紙破る秋の風 榎の実散る椋の羽音や朝嵐
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「お」から始まる句 (偉大・重い) |
扇にて酒くむかげや散る桜 落ち来る高久の宿の郭公 思ひ立つ木曽や四月の桜狩り
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どうでしょうか、母音のイメージが俳句の中にも感じられるのではないでしょうか
母音を意識して俳句を作る人は沢山いますが、どこで母音を意識するかは、人それぞれのようです
一句の中の最初の文字を意識する人もいます
あかあかと 日はつれなくも 秋の風
ああああお いあうえあうお あいおあえ
全ての単語の最初の文字を意識する人もいます
あかあかと 日はつれなくも 秋の風
ああああお いあうえあうお あいおあえ
一句の中で、一番数の多い母音を意識する人もいます(この句では「あ」が多い)
あかあかと 日はつれなくも 秋の風
ああああお いあうえあうお あいおあえ
このように、母音を意識する場所は、人それぞれなのですが
唯一、俳句の最初の母音だけは、どのケースでも意識されています
それだけ重要な音になり得る、ということです
句作や推敲の際に、母音に注意を払うことで、よりあなたの表現したかった俳句に近づけられるはずです
ぜひ参考にしてみて下さい