俳句の「出づ」について、徹底解説します
「出づ」という言葉は、「蛇穴を出づ」というように、季語としても使われています
ただ、「出づ」の使い方は、歳時記の例句の中でも誤用が多く、その誤用の例を真似て使ってしまう人も多く見かけます
誤用してしまう理由は、「出づ・出・出る・出ず・出でる」など、似たような言葉がたくさんあるからです
ここでは、主として使われる「出づ」の、意味、読み方、活用、使い方をまず説明します
次に「出づ・出・出る・出ず・出でる」などの言葉の違いや、間違った使い方を説明します
記事を読めば、自信をもって「出づ」が使えるようになります
「出づ」の読み方
「出づ」の古文での読み方は「いづ」です「でづ」ではありません
「でづ」という言葉はないので、注意しましょう
「出づ」の意味
「出づ(いづ)」の意味は、ある場所から外へ移ることを指します
現在の言葉での「出る(でる)」と、基本的に同じです
「出づ」の活用
「出づ(いづ)」は、ダ行下二段活用です
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
で | で | づ | づる | づれ | でよ |
このように活用します
「出づ」の様々な使われ方
「出づ」は、次のように活用すると説明しました
(で/で/づ/づる/づれ/でよ)
よく使われる言葉と意味を紹介します
「出でて」の意味
「出でて」は
「出で」(出づの連用形)+「て」(助詞の「つ」の連用形」
意味は、「出てしまう」
例句
照り出でて満都を覆ふ飛花の宙 水木夏子
「出で」の意味
「出で」は、「出る」と同じです
外に出で、
今らか出で、
のように連用形で止める場合に「出で」が使われます
また
出で行く
出で走る
のように動詞につなげるとき「出で」が使われます
例句
聖典を出で孑了となりにけり 新井富江
「出でし」の意味
意味は、「(すでに)出ている」
「出で」(出づの連用形)+「し」(助詞の「き」の連体形)
もしくは
「出で」(出づの連用形)に、語調を整えるための「し」
例句
つと出でし馬に驚く躑躅かな 林愈青
「出づる」の意味
「出づる」は出づの連体形
通常、その後に名詞を付けて使用します
出づる雲(出てくる雲)
出づる鳥(出てくる鳥)
例句
北ぐにの蛾の舞ひ出づる能舞台 桂信子
「出でく」の意味
「出で」(出づの連用形)+「来(く)」(「来る」の文語形)
意味は「出てくる」
例句
月出で来、撃たれても目を瞑らない 木村聡雄
「出でたる」の意味
「出で」(出づの連用形)+「たる」(助詞「たり」の連体形)
意味は「出てしまった」
「たる」は連体形なので、その後に名詞を付けて使用されます
出でたる雲(出てしまった雲)
出でたる鳥(出てしまった鳥)
冬満月山を出でたる電車かな 井山淑子
「出でよ」の意味
「出でよ」(出づの命令形)
意味は「出てこい」
例句
妻を呼ぶでつかい十五夜見に出でよ 上原重一
「出(づ)」とは何か?
古文には「出(づ)」という言葉もあります
ただ、漢字で「出」だけを書いても、分かりづらいので
俳句で使う人はあまり見かけません
「出(づ)」は、文語の「出づ(いづ)」の語頭の母音「い」が脱落した形です
活用は次の通りです
出(づ) ダ下二段活用
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
で | で | づ | づる | づれ | でよ |
出る(でる)は、文語ではないので注意!
出づ(いづ)に似た言葉に、出る(でる)があります
出る(でる)は、ダ行下一活用です
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
で | で | でる | でる | でれ | でろ でよ |
ちなみに、「出る(でる)」は口語です!!
文語ではないので、文語で俳句を作る人は使いません
文語で作っている俳句の中で「出る(でる)」を使っている人がいますが、注意しましょう
出る(でる)のややこしいポイント
「出る(でる)」には、ややこしいポイントがあります
口語の「出る(でる)」の連体形は「出る(でる)」
文語の「出(づ)」の連体形は「出る(づる)」という所です
表記がまったく同じで、読みだけが違います
「出る」と書かれていると、どちらで詠まれているのかは分かりません
例えば、次の句
いつせいに土を出る音つくつくし 大盛和美
↑
「つちをでる」なら口語
「つちをづる」なら文語
ということです
このばあい、ひらがなで書かれていれば、どちらを使っているのか分かります
次の句は「でる」と書いているので口語です
白桃に触れたものから村をでる 木村ゆきこ
「出づ(いづ)」「出(づ)」「出る(でる)」の歴史
いまあげた、「出づ(いづ)」「出(づ)」「出る(でる)」の関係を整理して表にしました
文語の「出づ(いづ)」の語頭の母音「い」が脱落して「出(づ)」に変化し、「出(づ)」が下一段活用化して、口語の「出る(でる)」に変化しました
このような流れです
文語 | 出づ(いづ) ダ下二 (で/で/づ/づる/づれ/でよ) ↓ ↓※出づ(いづ)の語頭の母音「い」が脱落した形 ↓ 出(づ) ダ下二 (で/で/づ/づる/づれ/でよ) ↓ ↓※出(づ)が下一段活用化した形 ↓ |
口語 | 出る(でる) ダ下一 (で/で/でる/でる/でれ/でろ・でよ) |
「出ず(いず)」は誤用
俳句では「出ず(いず)」という言葉が頻繁にみられます
文語の「出づ(いづ)」を無理やり口語表記に直したものが「出ず(いず)」です
俳句は次のように使われているのを見かけます
ほろ酔の暖簾出ずれば冬の星 軽部榮子
連絡船より主婦等出ずオートバイ殘し 金子兜太
この「出ず(いず)」ですが、俳句では絶対に使わない方がよいでしょう
「出ず(いず)」は下二段活用です
(ぜ/ぜ/ず/ずる/ずれ/ぜよ)
この活用を見ても分かりますが、口語の助詞も、文語の助詞もつけようがありません
無理に助詞をつけても、この世にない言葉が生まれます
「出ず(いず)」のややこしいポイント
「出ず(いず)」には、ややこしいポイントがあります
文語の「出づ(いづ)」を無理やり口語にしたものが「出ず(いず)」だと言いました
文語の「出(で)」(出(づ)の未然形)+助詞の「ず」も、「出ず(でず)」で、同じ表記です
「出ず(いず)」の意味は「出る」
「出ず(でず)」の意味は「出ない」
まったく別の意味になります
このような混乱は、「出づ(いづ)」を無理やり口語にして「出ず(いず)」などと使うから生じたものです
読者の混乱を招き、意味の通じない「出ず(いず)」は、絶対に使わないことです
「出でる(いでる)」は誤用
俳句では、まれに「出でる(いでる)」という言葉を使っている人がいます
このような言葉はないので、注意しましょう
おそらく、ですが
「出づ(いづ)」の連体形の「出づる(いづる)」を、口語のように変換して「出でる(いでる)」と使っているか
「出づ(いづ)」の連用形の「出で(いで)」に、誤って助詞の「る」をつけているか(助詞の「る」は下二段活用の出づ(いづ)には付かない)
だと思います
このように、どれを使いたかったのかが分からない状態では、読者は意味を理解できない、ということでもあります
この言葉も、使わないように注意しましょう
「出」で始まる言葉のまとめ
記事で紹介した「出」で始まる言葉をまとめました
出づ(いづ) 下二段活用 文語 (で・で・づ・づる・づれ・でよ) 出(づ) 下二段活用 文語 (で・で・づ・づる・づれ・でよ) 出る(でる) 下一段活用 口語 (で・で・でる・でる・でれ・でろ) 出ず(いず) 「出づ(いづ)」を無理やり新仮名表記にしたもの 出でる(いでる) このような言葉はありません |
さいごに
出づ(いづ)、出(づ)、出る(でる)、出ず(いず)、出でる(いでる)など、さまざまな言葉を見てきました
もしかすると、「少しややこしいな、もうどうでもいいよ」と感じた方もいたのではないでしょうか
ただ、そのように感じるからこそ、「もう、これでいいでしょ」というように使って、誤用する例がよくあります
誤用した俳句が歳時記にも載っているため、それを見て他の人も誤用します
「あれ?本当にこれでいいのかな?」と、少しでも思ったときは、必ず確認することをお勧めします
結社誌であれ、句集であれ、作品を発表してしまった後では直すことができません