「胡蝶の夢」とは
春の季語である「蝶(ちょう)」は、ひらひらと舞う姿が愛らしい、私たちにとって身近な存在です。
しかし、歳時記をよく見ると、蝶の関連季語に「胡蝶(こちょう)の夢」という少し不思議な言葉が載っていることがあります。 1.2)
「胡蝶の夢」は、単なる夢のことなのでしょうか?
故事に秘められた「哲学」
この言葉は、古代中国の思想家、荘子(そうじ)の故事に由来します。 3.4.5)
ある日、荘子は夢の中で蝶になった。ひらひらと軽やかに飛び回る、楽しい夢だった。しかし、目が覚めて「自分は蝶だったのか、それとも今の自分は、蝶が見ている夢なのか?」と、夢と現実の区別がつかなくなってしまった。
この故事から、「胡蝶の夢」は、夢と現実の区別がつかない、人生の儚さや、物事の相対性を表す言葉として使われるようになりました。
つまり、「胡蝶の夢」は、蝶そのものを指す季語ではなく、「蝶」という言葉が物語る、深い哲学的な意味を込めた言葉なのです。
季語に隠された「言葉の遊び」
歳時記に「胡蝶の夢」が載っているのは、単に「蝶」という言葉が含まれているからだけではありません。この言葉には、過去の俳人たちが、荘子の故事に想いを馳せ、その世界観を句に込めてきた歴史があります。
花に飛ぶ胡蝶の夢の戯れなり
この句は、「花」と「胡蝶」という春の季語を使いながら、「胡蝶の夢」という言葉で、人生の儚さや無常観を表現しています。
季語を学ぶことは、言葉の正しい使い方だけでなく、その背景にある文化や、先人たちが言葉に込めた想いを知ることでもあります。
あなたは、この春、「胡蝶の夢」という季語にどんな想いを込めて、夢と現実の世界を詠みますか?
1)角川書店.(2022).新版角川俳句大歳時記.KADOKAWA.
2)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
3)小学館.(2006).精選版日本国語大辞典.小学館.
4)監修:松村明.デジタル大辞泉.小学館.
5)小学館.日本大百科全書(ニッポニカ).小学館.
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