俳句の世界では、「季語は一つ」というルールが基本です。しかし、歳時記をよく見ると、同じ季節を表す言葉が重なっている季語に出会うことがあります。冬の季語「衾(ふすま)」と、その関連季語「冬衾(ふゆぶすま)」もその一つです。 1.2)
冬の季語の一覧 >>>
季重なりが生まれた理由
現代の私たちは、「衾」と聞けば冬を思い浮かべます。しかし、かつて「衾」という言葉自体に、冬の季節感はありませんでした。
- 衾(ふすま): 寝るときに体を覆う、今の布団のような寝具。
そのため、昔の俳人たちは、これが「冬」のものであることを明確にするために、「冬」を冠して「冬衾」と詠んだのです。
その後、時代が移り変わり、「衾」が「冬の寝具」として広く認識されるようになると、「衾」だけで冬の季語となりました。こうして、「冬衾」という言葉は、季語「冬」と季語「衾」が重なる「季重なり」の季語として歳時記に残ることになったのです。
季語の「季重なり」を恐れない
このような季語の歴史を知ると、「季重なりは絶対にいけない」という考え方だけでは、俳句の世界を狭めてしまうことに気づきます。
例えば、
冬衾生き身の温さ抗へり 内藤吐天
この句では、「冬」をあえて加えることで、衾のぬくもりと、外の厳しい寒さとの対比を強調し、より深い情感を表現しています。
現代の私たちが季重なりを避けて句を詠んでも、数十年後には、その句が季重なりになっている可能性も十分にあります。なぜなら、言葉や季語の意味は、時代と共に常に変化していくものだからです。
大切なのは、言葉のルールに縛られることではなく、「なぜこの言葉を使うのか?」を深く考えることです。
季語のルールを理解した上で、あえて「季重なり」に挑戦してみるのも、俳句の新たな境地を開くきっかけになるかもしれません。言葉の歴史を知り、自由に表現する姿勢こそが、あなたの俳句をより魅力的にする鍵なのです。
冬の季語の一覧 >>>
1) 角川書店.(2022).新版角川俳句大歳時記.KADOKAWA.
2) 日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
季語を詳しく知りたい方は、「四季を語る季語」がお勧めです。24,000季語の意味が掲載された電子辞書です。
アマゾンプライム会員であれば、「春版」が無料で読めます(期間限定)。
Kindle Unlimited会員であれば、「春夏秋冬+新年」の全てが無料で読めます。
関連記事
- 「うそ寒(うどざむ)」の「うそ」とは
- 「夕焼ける」の使い方は正しい?
- 「梅つ五月」の意味が旧暦二月?
- 「百松明の神事」は実在する?
- 「秋の隣」が季語にならない時?
- ショウブ、アヤメ、カキツバタの違い
- 一茶の句に学ぶ「露の世」の謎
- 七十二候に隠された、もう一つの顔
- 俳句の季語「たかみそぎ」って何?
- 俳句初心者さん向け!「秋の色」について深掘り解説
- 季語「歳暮祝(せいぼいわい)」の違和感
- 季語の物語を探る!「蘆の神輿」は担ぐものじゃない?
- 季語の落とし穴?「大吉」とは
- 季語の落とし穴?「林の鐘」とは
- 季語の落とし穴?「雁の涙」とは
- 季重なり季語?「冬衾(ふゆぶすま)」とは
- 季重なり季語?「冬襖(ふゆぶすま)」とは
- 季重なり季語?「冬障子」とは
- 季重なり季語?「斑雪凍つ」とは
- 季重なり季語?「木の芽流し」は春?夏?
- 歳時記の間違い?紫陽花の別称の瓊花(けいか)とは
- 熊が冬の季語?クマ被害は夏に多いけれど・・・
- 音数から季語を探したいときは、こちら
