春の季語には、可愛らしい姿の「潮招(しおまねき)」というカニがいます。
歳時記によっては、このカニの関連季語として「湖招(うしおまねき)」という言葉が載っているのを目にすることがあります。 1)
しかし、「湖」と「潮」では、意味が全く違います。「湖」は淡水の「みずうみ」、「潮」は海水の「しお」を指します。この季語は一体どちらが正しいのでしょうか?
季語に隠された「言葉の混乱」
「湖招(うしおまねき)」という言葉は、ほとんどの辞書や歳時記には見当たりません。
これは、「潮招(しおまねき)」という季語が、何らかの理由で「湖招(うしおまねき)」と誤って表記されてしまった可能性があると考えられます。
- 潮招(しおまねき):海辺に生息するカニ。片方の大きなハサミを振る姿が、潮を招いているように見えることからこの名がついた。
- 湖招(うしおまねき):本来は「潮招(しおまねき)」を指す言葉の誤表記。
また、「潮招」と書いて「うしおまねき」と読み仮名を振っている歳時記もあります。
「潮」という漢字は「しお」と「うしお」の両方の読み方がありますが、「潮招」は固有名詞として「しおまねき」と読むのが一般的です。
季語を選ぶということ
季語は、作者の意図を正確に読者に伝えるための大切な道具です。
もしあなたが「湖招(うしおまねき)」と詠んだ場合、読者は「湖にいるカニなのかな?」と勘違いしてしまうかもしれません。これでは、本来作者が伝えたかった海辺の情景が、台無しになってしまいます。
季語を選ぶことは、言葉の持つ意味や背景を深く理解することです。正しい言葉を選ぶことで、あなたの句はより明確に、そしてより豊かな世界観を表現できるようになります。
季語を学ぶことは、言葉の探検です。たった一つの言葉でも、その背景を調べてみると、意外な発見があるかもしれません。
参考資料
1)日外アソシエーツ.季語・季題辞典.https://www.weblio.jp/cat/dictionary/nkgmj (参照:2024.04.04)
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