俳句の季語や日本の暦を調べていると、ときに読み方や意味が複数ある言葉に出会います。
今回は、夏の季語である「半夏生(はんげしょう、はんげしょうず)」に隠された、興味深い謎を解き明かしていきましょう。
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謎その1:なぜ読み方が二つある?
七十二候の一つである「半夏生」は、書籍や歳時記によって、主に二つの読み方が混在しています。
- 「半夏生(はんげしょうず)」
これは「半夏という植物が生えてくる頃」という意味で、七十二候本来の読み方です。中国から伝わった七十二候には、「竹笋生(たけのこしょうず)」や「螳螂生(かまきりしょうず)」のように、「〜生ず」という形が使われます。この読み方は、意味が明確で分かりやすいのが特徴です。 - 「半夏生(はんげしょう)」
こちらは、日本独自の雑節(二十四節気を補う暦)である「半夏生」の読み方で、一般的に使われることが多いです。
この二つの読み方が混在しているのは、「七十二候」と「雑節」という、異なる二つの暦が、同じ言葉を使っているためだと考えられます。
謎その2:季語になったのは「時候」か「植物」か?
「半夏生」という名前のドクダミ科の植物があります。この植物は、七十二候の「半夏生」の頃に、葉の一部が白く変色するという特徴を持っています。
そのため、季語として「半夏生」が使われるとき、それが「時候」を指すのか、それとも「植物」を指すのか、判別が難しい句がしばしば見られます。
例えば、
一粒の雨を広葉に半夏生 桂信子
この句の「半夏生」は、雨が降る様子から時候を詠んでいるようにも、葉が広い植物の「半夏生」を詠んでいるようにも読めます。
作者がどちらを意図したのかは定かではありませんが、読者にとっては、その両方のイメージが重なり合い、奥行きのある句に感じられます。
「謎」を愉しむ俳句の世界
季語の読み方や意味の曖在さは、ときに俳句の面白さにつながります。
もしあなたが「半夏生」を詠むなら、「半夏生ず(はんげしょうず)」と読むことで、「植物が生えてくる頃」という、時候の明確なイメージを伝えることができるでしょう。
しかし、あえて「半夏生(はんげしょう)」という読み方を使うことで、時候と植物の両方のイメージを読者に想像させる、より奥深い句を目指すことも可能です。
季語の背景にある謎を解き明かすことは、単なる知識の蓄積にとどまらず、言葉に対する感性を磨くことにもつながります。
あなたは「半夏生」を、どう読み、どう詠みますか?
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