綿の実から綿の繊維をとる「綿取」という秋の季語があります
この関連季語として「角川俳句大歳時記」では「綿初穂」を紹介しています 1)
ただ、紹介はされているのですが、意味が書かれていません
ワタの漢字表記は、採取する前の植物の状態のものを「棉」、採取後のものを「綿」と書き分けるため
「綿初穂」は採取した後のワタとなります。そうなると「初穂」は何を指すのでしょうか?
一般的に初穂と言えば、植物の穂が初めてついた状態を想像します
なぜ、採取した後のワタに初穂という言葉がついているのでしょうか?
「俳句季語よみかた辞典」には、「綿初穂」は「綿の初穂」だと書いてあります 2)
そうなると、アオイ科の綿に初穂が出たということになりますが、アオイ科の綿は、実綿(みわた)、毛(綿花)、種子(綿実(めんじつ))などは見られますが、穂はみられません 3)
綿の一生について書かれた本にも「穂」の記述はひとつもありません 8)
そんな中、「日本国語大辞典」に次の解説を見つけました
綿初穂は「その年にはじめて収穫した綿花。神仏に供える。」 9)
「初穂」には別の意味があり
「その年に初めて収穫された稲穂や魚類などを神前に奉納すること」でも使われます
そうなると綿初穂は、収穫された綿を神前に奉納することなのでしょうか?
これに関連しそうな文も見つかりました
「土人取て綿の初穂ち供つ之ち境内に・・」 4)
これは、会津若松市の蚕養(こがい)国神社での文言で、地域に住む人(土人)は、綿取り(取て綿)の初穂を供えたのち・・といったこと
また、安楽寺を護持するために、麦初穂、綿初穂、米初穂を集めていた記録も見つかりました 5)
稲や魚ではなく、お金を神様へお供えするものを「初穂料」というようで
「佛教史學研究」に「綿初穂料として御坊に銭372文出す」とも書かれています 6)
これらを考えると、綿初穂は
収穫した綿を神仏に供える(初穂)こと
また、神仏に供える(初穂)ための綿をいうのかもしれません
あくまでも想像です
辞書に「綿初穂」は載っていないので、この季語を使う場合は、ご自身で意味を確かめたうえで使ったほうが良いかもしれません
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1)角川書店.(2022).新版角川俳句大歳時記.KADOKAWA.
2)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
3)監修:松村明.デジタル大辞泉.小学館
4)寺島良安.和漢三才図会
巻第53−71.(明34).中外出版社
5)茨木市,茨木市教育委員会.わがまち茨木風習編.(1993).茨木市.
https://dl.ndl.go.jp/pid/898185/1/126 (参照:2024.03.27)
6)佛教史學研究. (1992).日本:佛教史學會.
8)朝日新聞社.(1997).植物の世界.朝日新聞社.
9)小学館.(2003).日本国語大辞典.小学館