「大吉」とは
俳句を詠むとき、私たちは季節感を伝えるために季語を選びます。しかし、中には普段私たちが使っている言葉とは少し違う意味を持つ季語も存在します。
初春の季語「大吉(だいきち)」もその一つかもしれません。
歳時記によっては、「大吉」を「立春大吉」と書かれた札のことだと説明しています。 1)
季語「大吉」が持つ二つの顔
私たちが「大吉」と聞くと、まずおみくじを思い浮かべるでしょう。それは最高の運勢を表す、とても縁起の良い言葉です。
しかし、俳句の季語としての「大吉」は、立春の日に寺院の門などに貼られる「立春大吉」の符札を指します。この札は、鬼が家に入っても振り返ったとき「立春大吉」の文字が左右対称に見えるため、鬼が「さっき通った家だ」と勘違いして去っていくという言い伝えから、魔除けとして用いられてきました。
このように、季語としての「大吉」は、おみくじとは全く異なる意味を持っています。
言葉の選び方で作品が変わる
もしあなたが「大吉」を季語として使おうとしたとき、読者はどちらの「大吉」を思い浮かべるでしょうか? おそらく、多くの人がおみくじの方を想像するでしょう。
作品が作者の意図通りに伝わらないことは、俳句では避けたいことです。そのため、この季語を使う際には、一工夫が必要です。
- 「大吉」とだけ書くのではなく、「立春大吉」と詠むことで、読者に季語が指す対象を明確に伝えられます。
- あるいは、あえて「大吉」とだけ詠んで、それがおみくじなのか、立春の札なのか、読者に想像させる余白を作ることも可能です。しかし、この場合は、句全体でその「大吉」が何であるかを読み取れるような工夫をした方がよいでしょう。
季語を選ぶことは、言葉の持つ背景や、読者とのコミュニケーションを考えることでもあります。
あなたが伝えたい情景を、最も的確に表す言葉は何なのか。それを探求するプロセスこそが、俳句の醍醐味とも言えます。
1)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
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