「冬襖(ふゆぶすま)」とは
俳句の世界には、「季語は一つ」というルールが基本です。
しかし、歳時記をよく見ると、同じ季節を表す言葉が重なっている季語に出会うことがあります。
冬の季語「襖(ふすま)」と、その関連季語「冬襖(ふゆぶすま)」もその一つです。
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季語が持つ「時間の痕跡」
「襖」は、木枠に紙を貼った、日本の伝統的な建具です。現代の私たちは、冬の冷たい空気を遮るものとして、この言葉に冬の季節感を感じます。
しかし、かつては「襖」という言葉自体に、季節を示す明確な意味はありませんでした。そのため、昔の俳人たちは、これが「冬」の情景であることを明確にするために、「冬」を冠して「冬襖」と詠んだのです。
その後、時代が移り変わり、「襖」が「冬の建具」として広く認識されるようになると、「襖」だけで冬の季語として定着しました。こうして、「冬襖」という言葉は、季語「冬」と季語「襖」が重なる「季重なり」の季語として歳時記に残ることになったのです。
季語の「季重なり」を恐れない
このような季語の歴史を知ると、「季重なりは絶対にいけない」という考え方だけでは、俳句の世界を狭めてしまうことに気づきます。
例えば、
冬襖開ければ人の匂ひして 高橋将夫
この句では、「冬」をあえて加えることで、襖を隔てた空間の寒さと、中から漂う人の温かさの対比を強調し、より深い情感を表現しています。
現代の私たちが季重なりを避けて句を詠んでも、数十年後には、その句が季重なりになっている可能性も十分にあります。なぜなら、言葉や季語の意味は、時代と共に常に変化していくものだからです。
大切なのは、言葉のルールに縛られることではなく、「なぜこの言葉を使うのか?」を深く考えることです。
季語のルールを理解した上で、あえて「季重なり」に挑戦してみるのも、俳句の新たな境地を開くきっかけになるかもしれません。言葉の歴史を知り、自由に表現する姿勢こそが、あなたの俳句をより魅力的にする鍵なのです。
1)角川学芸出版.(2006).角川俳句大歳時記.角川書店.
2)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
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