俳句の世界には、季節を表現する美しい言葉がたくさんあります。
その中に、「蘭秋(らんしゅう)」という季語があります。歳時記によっては、この言葉を「初秋」の季語として紹介しています。 1)
しかし、「蘭」という漢字は「蘭の花」を指し、秋の季語です。「蘭の秋」という言葉になると、秋全体を指す言葉のように感じられます。なぜ「初秋」に限定されるのでしょうか?
「蘭秋」に隠された、言葉のルーツ
この言葉の謎を解く鍵は、「蘭」が持つ、もう一つの意味にあります。
- 蘭(らん):蘭の花。
- 蘭(らん):「蘭月(らんげつ)」とも言い、旧暦の七月を指す言葉。
旧暦の七月は、現在の暦でいうと「初秋」にあたります。
つまり、 蘭秋 → 蘭月 → 旧暦七月 → 初秋
というように、言葉のルーツをたどると、「蘭秋」が「初秋」の季語として使われる理由が見えてきます。
この言葉は、単に「蘭の花が咲く秋」という意味だけでなく、「旧暦の七月」という、歴史的な時間軸を句に加えることができる、奥深い言葉なのです。
季語探偵を楽しもう
季語を学ぶことは、言葉の探偵になることです。少しでも「あれ?」と思う言葉に出会ったら、そのルーツをたどってみてください。
その言葉の背景にある、文化、歴史、そして言葉のつながりを発見することで、あなたの俳句はさらに豊かなものになるでしょう。
参考資料
1) 日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
2) 白川静.普及版 字通.(2014).平凡社.
3) 小学館.(2006).精選版 日本国語大辞典.小学館.