「棘高鯵」とは
俳句の世界には、一見すると難解な季語が数多く存在します。
夏の季語として紹介されている「棘高鯵」もその一つかもしれません。 1.2)
歳時記や辞書によって、この季語の読み方が、「イダカアジ」「トゲタカアジ」「イラタカアジ」と、いくつも紹介されているのを目にすることがあります。3.4.5.6)
一体、どれが正しいのでしょうか?
季語の読み方の謎
この季語の読み方が複数あるのは、もともと「いらたか」という古語が、時代と共に「いだか」や「とげたか」と変化したり、同じものを指す言葉でも地域によって読み方が異なったりためでしょうか。
また、漢字の表記も「棘高鯵」や「苛高鰺」など、複数のパターンが見られます。 7)
これは、同じ言葉が異なる漢字で当て字されたり、書き写す際に誤りが生じたりした結果かもしれません。
「棘高鯵」は生きている鯵?それとも加工品?
さらに複雑なのは、この季語が何を指すのか、という点です。
- 鯵の一種として、生きている魚を指す。 8)
- 塩漬けにした加工品を指す。 3)
この二つの説が混在しています。もし「棘高鯵」が加工品であるならば、「棘高鯵が泳ぐ」「棘高鯵を釣る」といった表現は誤用になってしまいます。
季語の探偵になろう!
「棘高鯵」のように、読み方も意味も定まっていない季語は、俳句を詠む上で難しく感じられるかもしれません。しかし、これこそが言葉の探求の面白さでもあります。
歳時記に載っているからと「鯵」として詠むのではなく、自分で言葉の意味を正確に解き明かす。
そうすることで、その季語が持つ歴史や背景を深く理解でき、あなたの俳句はより味わい深いものになります。
もしあなたが「棘高鯵」を詠むなら、その季語にどんなイメージを託しますか?
- 荒波に逆らって泳ぐ力強い鯵?
- 昔の旅人が懐かしんだ、郷土の塩漬けの味?
言葉の謎を解く旅に出ることで、あなたの俳句はさらに輝きを増すはずです。
1)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
2)齋藤愼爾,阿久根末忠.(1997).必携季語秀句用字用例辞典.柏書房.
3)笹川臨風,足立勇.(昭和10).近世日本食物史.雄山閣.
4)荒俣, 宏. (2014). 世界大博物図鑑: 魚類. 日本: 平凡社.
5)改造社.(昭和22).俳諧歳時記 夏.改造社.
6)中谷無涯 編.(明42).新脩歳時記.俳書堂
7)小学館.(2006).精選版日本国語大辞典.小学館.
8)久保得二 編.(明45).新式大辞林.博文館
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