秋の季語の謎!「露の袖」はどんな露?

「露の袖」とは

秋の季語である「露」には、たくさんの関連季語があります。
その中に、少し不思議な言葉があります。「露の袖(つゆのそで)」、そして「袖の露(そでのつゆ)」です。 1.2.3)

歳時記には、「涙を袖の露に見立てたもの」と説明されることがありますが、この言葉は本当に季語として使えるのでしょうか?

謎その1:「涙」か「露」か、それが問題だ

「露の袖」や「袖の露」は、古くから和歌で使われてきた表現です。

  • ふきむすぶかぜはむかしのあきながらありしにもあらぬそでの露かな
    (吹く風は昔と同じ秋の風なのに、昔とは違う悲しい思いで、袖は露、つまり涙で濡れているのだなあ)

この和歌のように、多くの場合は「涙」を指す比喩として使われてきました。

しかし、もし「露の袖」が「涙」を意味するなら、それは季節を問わず使うことができます。
そう考えると、この言葉が秋の季語として成立するのか、疑問が生まれます。

謎その2:言葉の省略?それとも言葉の「発見」?

もし「露の袖」が本当に秋の「露」を指しているとすれば、なぜわざわざ「袖」という言葉を付け加える必要があるのでしょうか?「露」だけで十分季語として通用します。

この謎を解く鍵は、言葉の成り立ちにあるのかもしれません。

  • 「袖に置く露」:風情がある秋の情景
  • 「袖に置いた露」を、 「露の袖」と表現することで、より詩的な響きが生まれる

これは、単に言葉を省略したのではなく、「袖に置いた露」という情景を切り取り、「露の袖」という一つの言葉として再発見した、とも考えることができます。

季語の多様性を愉しむ

「露の袖」は、「涙」という人間の感情と、「露」という自然の現象が結びついた、非常に美しい言葉です。作者がどちらの意味で詠んだのかは、句の文脈によって決まります。

例えば、

露の袖触れ合うて船出港す 稲畑廣太郎

この句では、「露の袖」を「涙」と解釈すると、別れを惜しむ人々の姿が浮かび上がってきます。一方、「露」と解釈すると、夜明けの船着き場で、袖に付いた露が触れ合うという、繊細な情景が目に浮かびます。

どちらの解釈も成立することで、句の奥行きがぐっと深まります。

季語を学ぶことは、言葉の奥深さを知ることでもあります。歳時記に載っている季語でも、その言葉に隠された複数の意味や解釈を自分なりに探求してみること。その探求が、あなたの俳句をさらに豊かなものにしてくれるでしょう。



参考資料

1)角川書店.(2022).新版角川俳句大歳時記.KADOKAWA.
2)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
3)汀子稲畑.(1999).ホトトギス俳句季題便覧.三省堂.
4)監修:松村明.デジタル大辞泉.小学館



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