春の季語に、「菅笠(すげがさ)を担(にな)ふ」という少し変わった言葉があります。歳時記によっては、「関白が賀茂の社に参詣する行事」と説明されていることがあります。 1)
しかし、「菅笠を担う」という言葉が、なぜ行事全体を指すのでしょうか?この言葉の謎を解き明かしてみましょう。
季語に隠された、王朝の風習
この季語は、平安時代から続く「関白賀茂詣(かんぱくかももうで)」という行事に由来します。
この行事では、当時の最高権力者であった関白が、賀茂神社(京都市)に参拝します。その道中、行列の先頭では、人々が大きな菅笠を掲げて歩く風習がありました。2)
「菅笠を担ふ」という季語は、この「大きな菅笠を担いで歩く行列の様子」そのものを指す言葉です。
つまり、
- 「関白賀茂詣」:行事そのもの
- 「菅笠を担ふ」:行事の中の特定の情景
を指しているのです。
この季語は、単に「菅笠を担ぐ」という動作を詠むだけでなく、その背後にある王朝の華やかな行列、春の京都の情景、そして神聖な儀式を暗示する、奥深い言葉なのです。
季語を選ぶということ
季語を選ぶことは、言葉の持つ意味を深く理解することです。
もしあなたが、単に「関白賀茂詣」を詠むだけでなく、その雅やかな情景を句に込めたいのであれば、「菅笠を担ふ」という季語はぴったりです。
季語を学ぶことは、言葉の背景にある文化や歴史を探る旅です。少しでも気になった季語があったら、ぜひ一度調べてみてください。そこには、思いがけない発見や、俳句の題材になるヒントが隠されているかもしれません。
参考資料
1)日外アソシエーツ.季語・季題辞典.インターネット版.https://www.weblio.jp/cat/dictionary/nkgmj.(参照:2024/03/25)
2)小学館.(2006).精選版日本国語大辞典.小学館.
3)曲亭馬琴編.藍亭青藍補.増補俳諧歳時記栞草(上).八坂書房.p146
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