「草刈笛」とは
俳句の世界には、一見すると意味が分かりにくい、不思議な季語が隠されています。夏の季語「草刈笛(くさかりぶえ)」もその一つかもしれません。
歳時記には「草刈童が吹く笛」とありますが、草刈をしながらなぜ笛を吹くのでしょうか? 1)
そして、それは本当に季語として使える言葉なのでしょうか?
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謎その1:なぜ笛を吹くのか?
現代の草刈り作業では、笛を吹く場面はほとんどありません。しかし、昔の日本では、草刈りを生業とする人々がいました。彼らは童(わらべ)や若者であることが多く、重労働の合間に、あるいは単調な作業の退屈を紛らわすために、笛を吹いたのかもしれません。
これは、作業歌や民謡が労働の場で歌われたように、笛の音もまた、日々の暮らしに寄り添う「音の情景」だったと考えられます。
謎その2:季語として使えるの?
「草刈笛」を季語として使うには、いくつかのハードルがあります。
- 単独で意味が通じにくい
 「草刈笛」とだけ詠んでも、読者は「草刈りをしている人が吹いている笛」以上の情景を想像するのが難しいかもしれません。草刈に欠かせない道具ではないため、「草刈」という季語と直接結びつけるには、少し説明が必要です。
- 昔の言葉
 「草刈笛」は、中世の物語や和歌に登場する言葉で、現在ではほとんど使われていません。この言葉を使うことは、読者に古風な印象を与えることになります。
しかし、この「使いにくさ」こそが、この季語の面白いところです。
季語の背景を探る面白さ
「草刈笛」という言葉を詠むことは、単に夏の情景を切り取るだけでなく、昔の人々の暮らしや文化に思いを馳せることにつながります。
日くれぬと山路をいそぐうなこが草かりぶえのこゑぞさびしき 中務のみこ
この和歌は、日の暮れを急ぐ女性(うなこ)が聞く、草刈笛の寂しい音色を詠んでいます。この歌のように、季語の背景にある物語や人々の感情を読み解くことで、より深い句を詠むことができます。
俳句は、言葉のパズルであり、言葉の探検です。
歳時記に載っているというだけで、音数合わせで安易に使うのではなく、その季語が持つ歴史や文化を深く知ることで、あなたの俳句はさらに味わい深いものになるはずです。
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参考資料
1)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
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