「冬障子」とは
俳句を詠むとき、私たちは季節を表現するために季語を選びます。しかし、中には少し不思議な季語に出会うことがあります。
冬の季語「障子(しょうじ)」です。
「障子」は、木枠に和紙を張った建具で、冬の寒さを防ぐ役割を持つため、冬の季語として定着しています。
しかし、歳時記によっては、その関連季語として「冬障子(ふゆしょうじ)」が載っていることがあります。 1)
「冬」の季語である「障子」に、なぜさらに「冬」を付け加えるのでしょうか?
冬の季語の一覧 >>>
季語に隠された時間の痕跡
この謎を解く鍵は、季語の歴史にあります。 実は、「障子」は、もともと季節を示す言葉ではありませんでした。 2)
かつての俳人たちは、「障子」だけでは季節感が伝わりにくいと感じていたようです。
そのため、明治・大正時代にかけての俳句では、「冬」の情景を明確にするために「冬障子」と詠んだり、「春」の穏やかな光を表現するために「春障子」と詠んだりするようになりました。
手紙来ず暮れてしまひぬ冬障子 3)
時に濃き雀の影や春障子 4)
その後、時代の変化とともに、障子が「冬の冷気を遮る」という機能的なイメージから、「冬の風情を象徴する建具」として認識されるようになり、「障子」単独で冬の季語として定着していったと考えられます。
こうして、「冬障子」という言葉は、季語「冬」と季語「障子」が重なる「季重なり(きがさなり)」の季語として歳時記に残ることになったのです。
季語の「季重なり」を恐れない
このような季語の歴史を知ると、「季重なりは絶対にいけない」という考え方だけでは、俳句の世界を狭めてしまうことに気づきます。
例えば、「冬障子」とあえて詠むことで、単なる建具としての「障子」ではなく、厳しい冬の寒さを隔てる「冬の障子」という、より強い情景を読者に伝えることができます。
現代の私たちが季重なりを避けて句を詠んでも、数十年後には、その句が季重なりになっている可能性も十分にあります。なぜなら、言葉や季語の意味は、時代と共に常に変化していくものだからです。
大切なのは、言葉のルールに縛られることではなく、「なぜこの言葉を使うのか?」を深く考えることです。言葉の歴史を知り、自由に表現する姿勢こそが、あなたの俳句をより魅力的にする鍵なのです。
1)角川学芸出版.(2006).角川俳句大歳時記.角川書店.
2)現代俳句協会.(2004).現代俳句歳時記.学研プラス.
3)汀子稲畑.(1999).ホトトギス俳句季題便覧.三省堂.
4)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
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