「俳句を詠んだものの、なんだかピンとこない」「手直ししたいけれど、どこから手を付ければいいかわからない」──そんな悩みを抱える俳句愛好家は少なくありません。
推敲を重ねるうちに、句が最初のイメージから遠ざかったり、伝えたいことがぼやけてしまったりする経験はありませんか?
実は、より良い句に手直しするためのカギは、「句の中心」を明確にし、それを守ることにあります。ここでは、句の中心を意識した効果的な推敲方法についてご紹介します。
なぜ「句の中心」がずれてしまうのか?
せっかく句を詠んだのに、推敲の過程で句の中心がずれてしまうのには、いくつかの原因があります。
言葉の選びにこだわりすぎる
推敲を進めるうちに、「もっと美しい言葉はないか」「洗練された表現にしたい」と、言葉選びにこだわりすぎてしまうことがあります。
例えば、「晩秋を 落ちる夕日の 速さかな」という句で、「夕日が落ちる速さ」を詠みたかったとします。しかし、「落ちる」という表現が物足りなく感じ、類語辞典を引いたり、他の俳人の句を参考にしたりするうちに、当初の「速さ」という中心が「落ちる」という動作そのものに変わってしまったり、技巧的な表現ばかりが目立つ句になったりすることがあります。
語順をいじりすぎる
俳句の推敲では、言葉の順番を入れ替えることで、より良い表現を探すのは一般的な手法です。しかし、何度も語順を変えすぎると、どの順番が最も効果的か分からなくなり、かえって最初の印象から遠ざかってしまうことがあります。
先ほどの句を例に、「晩秋の 夕日は急きて 落ちにけり」と語順を変えると、夕日が落ちる様子そのものに重点が移り、「速さ」という最初のテーマが薄れてしまいます。このように、細かく調整しすぎると、句の中心が変わり、伝えたいことがぼやけてしまうことがあります。
語順の直し方については、こちらでも記事にしていますので参考になさってください >>
推敲の鉄則:句の中心には手を触れない
推敲における最も重要なルールは、句の中心に絶対に手を触れないことです。句の中心は、その俳句の核であり、ここを変えてしまうと句自体が全く別のものになってしまいます。
句の中心を見つける方法
では、句の中心とは具体的にどこを指すのでしょうか?それは、あなたがその俳句で一番言いたいことです。
- 「桜が散った」ことを一番詠みたかったのであれば、それが句の中心です。
- 「鹿が駆けた」ことを一番詠みたかったのであれば、それが句の中心です。
別の見方をすれば、句の中心はそれだけでも意味が分かる部分であり、そこを消してしまうと句の意味が分からなくなる部分でもあります。
例句:
- 眞直ぐに日差し捕へて蜜柑照る 川上万里
- 捨て猫に名月の餌やるひとりふたり 加藤知子
これらの句では、太字の部分が句の中心です。
なぜ句の中心をいじってはいけないのか?
句の中心をいじると、その句が「何について詠んでいるのか」が分からなくなる可能性が高まります。
「蜜柑が照る」という部分を、「蜜柑が光る」や「蜜柑が冴える」というようにいじってしまうと、単体では意味が通りにくくなり、句全体の意味が曖昧になってしまいます。余計な工夫を重ねるほど、その傾向は高まります。
手直しの実例:周辺を調整する
句の中心をいじらずに、周辺の言葉を調整することが推敲のポイントです。これにより、推敲が格段に簡単になります。
例句:
夕風に 吹かれて桜の 散りにけり
↑ ↑ ↑
① ② ③(句の中心:桜が散る)
この場合、③の「桜の散りにけり」には手を触れず、①または②のどちらかの言葉を直すのが適切です。
①を直す例
- ごうごうと 吹かれ 桜の散りにけり
- 潮風に 吹かれ 桜の散りにけり
- さやさやと 吹かれ 桜の散りにけり
②を直す例
- 夕風に あおられ 桜散りにけり
- 夕風に 抗い 桜散りにけり
- 夕風に 誘われ 桜散りにけり
このように、直す場所を絞ることで、その部分に力を集中できます。やみくもに全体をこねくり回すと、句の中心までいじってしまい、かえって意味が分からなくなることが多いのです。
先生の添削も「句の中心」はいじらない
俳句の先生に添削を依頼した経験がある方もいるでしょう。その際、句全体が大きく修正されることは少なく、一部分だけを修正することで句が劇的に良くなることが多いはずです。添削された句を見ると、句の中心部分には手を加えずに、周辺の言葉や表現が調整されていることが分かります。
直してはいけない部分を知るということは、どこを直せばよいのかがわかるということです。これが理解できるだけで、推敲の質もスピードも劇的に向上するでしょう。
推敲時のチェックリスト
句の「中心」を探し、手直しする際にのポイントをおさらいしましょう。
- 句の中心を見失わないこと: まず、俳句で最も伝えたいことは何かを明確にしましょう。中心を間違えると、必要のないところをいじってしまう可能性が高まります。
- 句の中心を変更しないこと: 句の中心は、その句の「肝」です。ここがあるからこそ、句の言いたいことが読み手に伝わります。ここをいじると、句全体の意味が不明瞭になってしまいます。
俳句を作る際も、推敲する際も、最初に「何を伝えたいのか」をはっきりさせることが重要です。句の中心を定めることで、ぶれることなく作品を仕上げることができ、それが「伝わる良い俳句」につながるでしょう。