俳句をたしなむ方なら、歳時記で紫陽花(あじさい)の別称として紹介されているの瓊花(けいか)を目にしたことがあるかもしれません。
しかし、この説には疑問の声が多く、専門家の間でも「間違いではないか」と指摘されています。
「瓊花」と「紫陽花」、何が違う?
結論から言うと、「瓊花」と「紫陽花」は全く別の植物です。
- 紫陽花:アジサイ科の低木。
- 瓊花:スイカズラ科の半常緑低木。1)
中国・揚州市の名花で、奈良の唐招提寺にも植えられています。
瓊花は、ガクアジサイに似た白い装飾花を咲かせます。この類似点から、「紫陽花」の別称として誤って歳時記に掲載されてしまったと考えられています。
季語を使う前に確認を
現代の歳時記や辞典には、過去の文献から引用された情報が含まれていることがあり、今回の「瓊花」のように、時代を経て事実と異なる情報がそのまま記載されているケースがあります。
もしあなたが「瓊花」を俳句で使おうと考えているなら、一度立ち止まって確認することをお勧めします。
季語の落とし穴
「瓊花」を紫陽花のつもりで使ってしまうと、読者に意図が正しく伝わらないだけでなく、植物としての事実関係に誤りが生じます。例えば、「梅雨の瓊花」と詠んだ場合、鑑真ゆかりの瓊花は5月上旬頃に咲くため、時季がずれてしまいます。
俳句は、短い言葉に作者の感性と情景を凝縮させる文芸です。だからこそ、その言葉が指し示す対象の背景や意味を深く知ることが、より豊かな表現につながります。
「瓊花」の句を詠むなら
もし瓊花を詠むのであれば、それが鑑真ゆかりの特別な花であることを踏まえて句を創作してみましょう。
瓊花はや青葉となりぬ鑑真廟 佐藤貞子
この句は、鑑真が故郷から持ち帰った瓊花が、時を経て青葉となる様子を鑑真廟と結びつけ、歴史の重みを感じさせています。
歳時記にある季語でも、その言葉のルーツをたどることで、新しい発見や、より深い表現の可能性が見えてきます。
知らない季語に出会ったら、ぜひご自身で調べてみてください。その小さな探求が、あなたの俳句をさらに魅力的にしてくれるはずです。
1)植物図鑑.ボタニックガーデン.http://www.botanic.jp/ (参照:2024.04.04)
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