俳句を始めたばかりの皆さん、歳時記を読んでいて「これはどういう意味だろう?」と首をかしげる季語に出会ったことはありませんか? 今回は、そんな「謎の季語」の一つ、「梅つ五月(うめつさつき)」の由来に迫ります。
「梅つ五月」とは
歳時記によっては、「梅つ五月」は旧暦二月の別称である「如月(きさらぎ)」の子季語として掲載されています。しかし、ここに大きな疑問が生まれます。
なぜ「五月(さつき)」と書いて、旧暦二月を指すのでしょうか?
文献をたどる中で見えたこと
いくつかの歳時記や辞典で「梅つ五月」を調べてみると、その出典として次のような古典が挙げられています。
- 『古今打聞』:「むめつさ月」と表記 1)
- 『俳諧四季部類』:「梅つさ月」と表記 2)
- 『古今要覧稿』:「梅つさ月」と表記 3)
これらの文献をたどると、どの資料も「梅つ五月」ではなく、「梅つさ月」と表記していることがわかります。
そうなると、「さ月」が、いつの頃からか「五月(さつき)」と書かれるようになった可能性が高く感じるのです。
なぜ「さ月」が「五月」に?
「さ月」を「五月(さつき)」と書くようになった理由は分かりませんが、これは個人的に誤用に感じます。
「さ月」と「五月(さつき)」は同じ読み方です。しかし、ある月(今回であれば二月)に、別の月名(「五月」)をあてはめることは、言葉の常識としては考えにくいことだからです。
「梅つさ月」の「さ」は?
「梅つさ月」の「さ」の由来も定かではありません。
「梅つ月(うめつづき)」は「梅の月」を意味し、旧暦二月を示す言葉として、これだけで十分に成立しています。それなのに、なぜわざわざ「さ」が加わったのでしょうか。
『古今要覧稿』という古典には、「つさ」は助字だと記されています。 3)
しかし、この説明だけでは、なぜこの「さ」が使われるようになったのか、納得のいく答えは見つかりません。もしかすると、言葉の響きを整えるために加えられたのか、あるいは、何らかの理由で「さ」という文字が誤って挿入されたのかとも感じてしまいます。
いずれにしても、この「さ」が加わったことで、言葉が持つ本来の意味が曖昧になり、現在の「梅つ五月」という言葉につながったと考えられます。
季語は言葉の宝物、だからこそ深く知ろう
俳句は、言葉の美しさと意味を大切にする文芸です。たった五・七・五の短い言葉の中に、作者の感性と情景を凝縮させます。だからこそ、その句の要となる季語が何を意味するのか、正確に理解しておくことが不可欠です。
もし歳時記で「梅つ五月」のような聞き慣れない子季語に出会ったら、安易に使ってしまう前に、一度立ち止まって辞書を引いてみましょう。その言葉のルーツをたどる小さな探求が、あなたの俳句をさらに奥深いものにしてくれるはずです。
「梅つ五月」を使った句
ちなみに、今回取り上げた「梅つ五月」は、現代の俳句や短歌で使われた例は見つかりませんでした。
これは、この季語が持つ歴史的な背景や、言葉の曖昧さが、作者たちの間で認識されているからなのかもしれません。
今回の「梅つ五月」のように、歳時記にはまだ多くの「謎」が潜んでいます。言葉の探偵になったつもりで、ぜひ季語の世界を冒険してみてください。
1)肥前島原松平文庫.古今打聞.
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100191893/20?ln=ja.2024/06/25参照.
2)二柳庵,半化房校 著.俳諧四季部類.
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00010783#?c=0&m=0&s=0&cv=35&r=0&xywh=1778%2C616%2C4072%2C752.2024/06/25参照.
3)屋代弘賢 著.古今要覧稿 時令部 巻1.
https://dl.ndl.go.jp/pid/897539/1/33.2024/06/25参照.
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