「対比を使った俳句があると聞いたけれど、どうやって作ったらよいかわからない・・」
そう思っているあなたへ。ここでは、いろいろは対比を使った実例をもとに、対比の使い方を紹介します。
以前、俳句を手直しするテクニックとして、単語を反対語に置き換える方法を紹介しました。
対比の俳句では、反対語の意味の異なる二つの単語を一句の中に入れるという、さらに進んだテクニックを使うことになります。
「対比の俳句」は、読み手の心に鮮やかな印象を残すことができます。
対比の効果とは?
真逆の事柄を一句の中に入れることで、作者が最も伝えたいことの「位置関係」がより鮮明になります。たとえば、「明るさ」を表現したい時、同じ句の中に「暗さ」という情報が入っていると、読み手はその二つを比較することで、明るさが際立つのを感じ取ることができます。
具体例:大小の対比
寒風や砂を流るる砂の粒 石田勝彦
この句では、「寒風」という雄大な自然の力を示す大きなものと、「砂の粒」という極めて小さなものが組み合わされています。この対比によって、「砂の粒」の微細さがより一層強調され、読み手の心に深く響きます。
視覚的な対比だけじゃない!
「長い・短い」「高い・低い」「暗い・明るい」といった、目で見てわかる視覚的な対比はもちろん効果的です。しかし、対比の技法はそれだけに留まりません。
感情の対比
相反する感情を同時に一句に入れることで、俳句に面白さや深みを与えることも可能です。例えば、「緊張」と「緩和」という感情の取り合わせも有効です。
雷なって御蚕の眠りは始まれり 前田普羅
落雷による緊迫した状況の中、蚕の穏やかな眠りに心がふっと緩みます。このように、真逆の心の変化を描写することで、読み手は複雑で人間らしい感情の揺れ動きを感じ取ることができます。
感情の意外な対比
しんしんと寒さがたのし歩みゆく 星野立子
この句の冒頭「しんしんと寒さが…」を読むと、普通は寂しさや身が縮むような感覚を抱きます。しかし、その後に「たのし」という真逆の言葉が飛び込んでくることで、読み手はハッとさせられます。厳しさの中に、歩むことの喜びや充足感を見出す、意外な心の動きが鮮やかに表現されています。
色の対比で鮮やかさを
視覚的な対比のさらに良い例として、色の対比も挙げられます。例えば、雪の白さを表現したい時、「真っ白の雪が降った」と言うよりも、「黒い花瓶に雪が落ちた」と表現する方が、黒と白の明確なコントラストが生まれ、雪の白さがより際立ちます。
実際の作例:色の対比
白梅のあと紅梅の深空あり 飯田龍太
この句では、「白梅」と「紅梅」という、二つの異なる色を持つ花を対比させることで、それぞれの色が強調され、情景がより鮮やかに目に浮かびます。
俳句に奥行きを!「対比」を使った作句法
「対比」を用いた俳句作り。一見難しそうに感じるかもしれませんが、実はとてもシンプル。詠みたい情景と、それとは真逆の情景を組み合わせるだけです。
ここでは、「桜が散る」情景を例に、その具体的な作り方をご紹介しましょう。
1. 詠みたいテーマを決める
まず、俳句で詠みたいテーマを決めます。今回は、多くの人が心を動かされる「桜が散る」情景をテーマにしましょう。
2. テーマの雰囲気を捉える
次に、決めたテーマが持つ「雰囲気」を考えます。「桜が散る」という情景は、一般的に「静か」で、どこか物寂しい雰囲気がありますよね。
3. 対比となる要素を見つける
テーマの雰囲気が「静か」だと分かれば、その反対となる要素を考えます。「静か」の反対は「賑やか」です。これで、「桜が散る」という静かな情景と、何か「賑やか」な事柄を組み合わせれば良い、という方向性が見えてきます。
4. 対比となる情景を具体化する
「桜が散る」中で、どんな「賑やか」な情景が考えられるでしょうか?例えば、「犬が元気に駆け回っている」様子はどうでしょう。静と動のコントラストも生まれますね。
5. 二つの情景を俳句にする
これで、「桜が散る」(静かな情景)と「犬が駆け回っている」(賑やかな情景)という二つの要素が揃いました。これらを組み合わせて俳句にしてみましょう。
駆け回る 犬に散りゆく 桜かな
このように、二つの対比する要素を一句にまとめることで、情景がより鮮やかに、そして情感豊かに伝わる俳句が生まれます。
「対比」の種類は様々
今回のように「静か」と「賑やか」は「状態の対比」ですが、「対比」には他にも様々な種類があります。
「対比」を用いることで、一句の中に奥行きと広がりが生まれます。ここでは、具体的な対比の種類と、その例となる反対語をご紹介します。
距離の対比
物と物、あるいは視点と対象の距離感に焦点を当てる対比です。
- 近い ↔ 遠い
- 例:「手前の花」と「遠くの山」、「足元の草」と「遥かな空」
- 例:「手前の花」と「遠くの山」、「足元の草」と「遥かな空」
色の対比
異なる色を並べることで、互いの色を際立たせ、情景を鮮やかに描写します。
- 白 ↔ 黒
- 明るい色 ↔ 暗い色(例:赤 ↔ 青、黄 ↔ 紫など、補色関係や明度の差)
- 例:「雪の白」と「鴉の黒」、「紅葉の赤」と「冬空の灰色」
- 例:「雪の白」と「鴉の黒」、「紅葉の赤」と「冬空の灰色」
抽象的な概念の対比
具体的な物事だけでなく、形のない概念や思想を対比させることで、より深いテーマを表現します。
- 幸福 ↔ 不幸
- 希望 ↔ 絶望
- 生 ↔ 死
- 真実 ↔ 嘘
- 例:「夢」と「現実」、「過去」と「未来」
- 例:「夢」と「現実」、「過去」と「未来」
感情の対比
人間の様々な感情を対比させることで、心の揺れ動きや複雑さを描写します。
- 喜び ↔ 悲しみ
- 愛 ↔ 憎しみ
- 安堵 ↔ 不安
- 怒り ↔ 穏やかさ
- 例:「笑い声」と「涙」、「期待」と「落胆」
- 例:「笑い声」と「涙」、「期待」と「落胆」
状態の対比
物事の動きや性質、状況を対比させることで、情景に躍動感や変化を与えます。
- 静か ↔ 賑やか
- 動 ↔ 静
- 速い ↔ 遅い
- 大きい ↔ 小さい
- 堅い ↔ 柔らかい
- 例:「激しい雨」と「静かなしずく」、「開く」と「閉じる」
- 例:「激しい雨」と「静かなしずく」、「開く」と「閉じる」
どの「対比」を選ぶかによって、俳句の印象はガラリと変わります。これは、作者の個性や感性が光る部分でもあります。
あなたにしか見つけられないユニークな「対比」を見つけて、ぜひ面白い俳句作りに挑戦してみてください。
いろいろな反対語を調べる方法
対比を使った俳句を作るには、反対語を知っていることが大切です。
特定の言葉の反対語や、より詳しい反対語を調べたい場合は、以下の方法がおすすめです。
① インターネットの検索エンジンで調べる
Googleなどの検索エンジンで「調べたい言葉 反対語」と入力して検索すると、簡単に反対語が見つかります。
② 反対語辞書を利用する
インターネット上には反対語に特化したサイトがあります。例えば、こちらのサイトでは反対語を効率的に調べられます。
・こちらのサイトでは反対語を調べられます >>
③ 電子辞書の反対語機能を使う
電子辞書によっては、反対語を検索する機能が搭載されています。
・おすすめの電子辞書は、こちらの記事で紹介していますので、参考にしてみてください >>
「対比」を使う上での注意点
この「対比」のテクニックは、多くの俳人が作品に取り入れている非常に効果的な技法です。しかし、使い方によっては「あからさますぎる」と評価されることもあります。記事の中で紹介した「白梅と紅梅」のように、色の違いが明確すぎる場合は、読み手によっては直接的すぎると感じられるかもしれません。
「反対語の取り合わせ」は、あなたの俳句表現の幅を大きく広げる強力なツールです。ぜひ色々な「対比」を試して、ご自身の表現を探求してみてください。