熨斗羽子(のしばね)とは
新年の季語に、羽根つき遊びで使う「羽子(はね)」があります。この羽子の関連季語に、「熨斗羽子(のしばね)」という少し聞き慣れない言葉が載っていることがあります。1.2)
「熨斗」は、お祝いの贈り物に添える飾りですが、一体どんな羽子なのでしょうか?
「熨斗羽子」に隠された、江戸の風習
この言葉の正体を調べてみると、とても面白いことが分かってきました。
「熨斗羽子」とは、江戸時代に、羽子板を売るときに使われた、縁起の良い飾り物だったようです。
- 羽子板市:正月に向け、羽子板を売る市が江戸で開かれました。
- 飾りつけ:羽子板を白い紙で包み、その上に、細長い竹の先に鳥の羽毛をつけたものを巻き付けていました。
この飾りを、お祝いの熨斗に見立てて「熨斗羽子」と呼んだのです。 3)
これは江戸独自の風習で、残念ながら、現在ではほとんど見られなくなりました。
季語を選ぶということ
季語を選ぶとき、私たちは音の響きや言葉の美しさで選ぶことがあります。
しかし、この「熨斗羽子」のように、その言葉が持つ本来の意味や、時代と共に失われてしまった風習が隠されていることもあります。
もし「熨斗羽子」という季語を使うのであれば、
- 昔の羽子板市のにぎわいを想像する。
- 江戸の文化を句に込める。
といった、言葉の背景にある情景や物語を意識することで、句に深みを与えることができます。
季語を学ぶことは、言葉の歴史を探る旅です。少し聞き慣れない季語に出会ったら、「これはなんだろう?」と疑問を持ち、そのルーツをたどってみてください。
その小さな探求が、あなたの俳句をより豊かなものにしてくれるはずです。
参考資料
1) 角川書店.(2022).新版角川俳句大歳時記.KADOKAWA.
2) 日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
3) 山田德兵衞.(1937).羽子板.芸艸堂.
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