「明やす」とは
夏の夜は短く、あっという間に夜が明けます。そんな夏の夜明けを表現する季語に「明易し(あけやすし)」があります。
この「明易し」の関連季語として、歳時記に「明やす(あけやす)」という言葉が載っているのを目にすることがあります。 1.2)
なぜ「明易し(あけやすし)」の「し」が抜けて、「明やす(あけやす)」と書いているのでしょうか?
季語に隠された「言葉の変化」
「明やす」という言葉は、「明易し(あけやすし)」の語幹です。日本語の古い言葉では、「~し」で終わる形容詞の「語幹」をそのまま名詞のように使うことがよくありました。
例えば、「寒し(さむし)」という形容詞の語幹である「さむ」を使った言葉に「肌寒(はだざむ)」があります。同じように、「明易し」という言葉の語幹「明やす」が、夏の夜明けを表現する一つの言葉として使われたと考えられます。
「明易し」と「明やす」、それぞれの魅力
「明易し」と「明やす」は、同じ意味を持つ言葉ですが、それぞれが持つニュアンスは少し異なります。
- 明易し:「〜しやすい」という、状態を説明するような表現。
- 明やす:言葉を短くすることで、より詩的な響きや、明けていく時間の速さを強調する効果。
俳人たちは、この言葉のニュアンスの違いを巧みに使い分けてきました。
明易や山裾にはや煙立ち 泰江安仁
この句では、短く言い切ることで、夜明けのひっそりとした空気と、人々の生活の始まりの早さが強く印象付けられます。
季語を学ぶことは、言葉が持つ本来の意味だけでなく、その言葉がどのように変化し、どんな表現に使われてきたのかを知ることでもあります。
あなたは「明易し」と「明やす」、どちらの響きが好きですか?
参考資料
1)角川学芸出版.(2006).角川俳句大歳時記.角川書店.
2)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
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