「秋晴る」とは
秋の澄んだ空を詠む季語に、「秋晴(あきばれ)」があります。この「秋晴」の関連季語として、歳時記によっては「秋晴る(あきはる)」という言葉が載っていることがあります。 1.2.3)
「晴る」は「晴れる」の文語形ですが、この「秋晴る」という言葉には、少し不思議な違和感が隠されています。
「秋晴れ」と「秋晴る」、何が違う?
「秋晴れ」は「秋の晴れ」で、秋の空が晴れ渡っていることを意味します。言葉としてとても自然で、誰もが意味を理解できます。
一方、「秋晴る」は「秋が晴れる」と解釈できそうですが、私たちは普段、「秋が晴れる」という言い方はしません。「空が晴れる」「霧が晴れる」のように、「何が晴れるのか」という対象を明確にします。
では、なぜ「秋晴る」という言葉が季語として使われるようになったのでしょうか?
なぜ「秋晴る」だけが存在するのか?
俳句の世界には、「春晴る」「夏晴る」「冬晴る」という季語は存在しません。なぜ、「秋晴る」だけが季語として定着したのでしょうか?
それは、秋の「晴れ」が持つ特別な意味にあると考えられます。
- 春の晴れ:うららかで、のんびりした雰囲気を持ちます。
- 夏の晴れ:ぎらぎらと照りつけ、力強い印象を与えます。
- 冬の晴れ:澄み切って、凛とした空気を感じさせます。
一方、秋の晴れは、空が高く澄み渡り、すべてが美しく見えるような、どこか特別な情感を伴います。俳人たちは、この秋の「晴れ」を表現するために、「秋が晴れる」という、少し文法的に不思議な言葉をあえて使ったのかもしれません。
この言葉の持つリズムと響きが、単なる「秋晴れ」では表現できない、秋の特有の情感を伝える上で効果的だったのでしょう。
「季語のルール」とどう向き合うか?
季語を学ぶことは、言葉の正しい使い方を学ぶだけでなく、言葉が持つ奥深さや、表現の面白さを知ることでもあります。
「秋晴る」という季語を使うかどうかは、あなた次第です。季語のルールを尊重し、「秋晴れ」という言葉を選ぶのも良いでしょう。
しかし、この言葉の持つ不思議な響きや、歴史的な背景に魅力を感じるのであれば、あえて「秋晴る」を選んで、あなただけの句を詠むこともできます。
季語の謎を解き明かし、言葉とどう向き合うか。その小さな探求が、あなたの俳句をさらに豊かなものにしてくれるはずです。
1)角川書店.(2022).新版角川俳句大歳時記.KADOKAWA.
2)日外アソシエーツ.季語・季題辞典.インターネット版.https://www.weblio.jp/cat/dictionary/nkgmj.(参照:2024/03/25)
3)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
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