「月不見月」とは
俳句の世界には、一見すると難解な言葉の組み合わせでできた季語があります。
旧暦5月を指す夏の季語「月不見月(つきみずつき)」もその一つかもしれません。
歳時記では、「五月雨(さみだれ)で雲が多いため、月がほとんど見えない月」と説明されていますが、この「月不見月」の「不見(みず)」という言葉には、いくつかの謎が隠されています。
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「見ない」か「見えない」かが問題
日本語には、「見る」(自分の意志で見ようとする)と「見える」(自然と目に映る)という、似ているようで全く違う動詞があります。
「月不見月」の「不見(みず)」という言葉は、古くから使われてきた言葉ですが、辞書で調べてみると、「自分から見ないこと」という意味で使われることが多いようです。 1)
そうなると、「月不見月」は「月が見えない月」ではなく、「月を見ない月」という意味になってしまいます。これでは、五月雨で月が隠れるという季語の意味と、言葉が持つ意味がずれてしまいます。
季語に隠された言葉遊び
この謎を解く鍵は、この季語が作られた背景にあるのかもしれません。
- 五月雨で月が見えない
- でも、「月が見えない」という言葉では面白くない
- そこで、あえて「月を見ない」という言葉を使う
これは、昔の俳人たちが楽しんだ、言葉の遊びだったのかもしれません。
七十二候には「虹蔵不見(にじかくれてみえず)」という言葉があります。この「不見」には「見えず」という読み仮名が振られており、「虹が隠れて見えなくなる」という意味で使われています。
同じように「月不見月」も、「月見えぬ月」と書けば意味は明確になります。しかし、あえて「月不見月(つきみずつき)」と読ませることで、言葉の響きや、どこかユーモラスな雰囲気を楽しんだのかもしれません。
季語の謎を解き明かそう
歳時記に載っている季語でも、その言葉の由来や意味を深く掘り下げてみると、意外な発見があるものです。
「月不見月」のような季語を使うときは、その言葉が持つ歴史や背景を理解した上で、あえてその言葉を選ぶという姿勢が大切です。
言葉の謎を解き明かすことは、あなたの俳句をさらに奥深いものにしてくれるはずです。
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1)小学館.(2006).精選版日本国語大辞典.小学館.
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