季語の落とし穴?「林の鐘」とは

「林の鐘」とは

俳句の世界には、一見すると漢字の意味がそのまま通用しそうな、不思議な季語があります。
旧暦6月の別称である「林鐘(りんしょう)」もその一つかもしれません。

歳時記によっては、「林の鐘(はやしのかね)」と訓読みで表記されていることがありますが、 1)
この言葉は文字通り「林の中にある鐘」のことなのでしょうか?

「林鐘」の本当の意味

「林鐘」は、中国古代の音階である「十二律」の一つで、旧暦6月の季節を象徴する言葉です。
つまり、この言葉は「音階」に由来するものであり、「林」と「鐘」という二つの言葉が組み合わさってできた、特別な意味を持つ言葉なのです。

そのため、もし俳句で「林の鐘」と書いた場合、読者は「林の中にある鐘」という、具体的な情景を想像してしまいます。
作者が意図した「旧暦6月」という季節感は、ほとんど伝わらないでしょう。

言葉の「ルール」と「遊び」

昔から、言葉遊びとして「林鐘」を「林の鐘」と表記する試みはありました。

例えば、謡曲『三井寺』では、あえて「林の鐘」と表現することで、「尾上(おのえ)の鐘」という言葉に掛けて、言葉の響きや面白さを生み出しています。

「言葉の林のかねてきく名も高砂の尾上の鐘」

しかし、これは言葉のルールを熟知した上でのおしゃれな「遊び」です。

「入梅(にゅうばい)」を「入りの梅」と書かないように、「林鐘」もまた、特定の意味を持つ熟語として理解する必要があります。

季語は「言葉の約束事」

俳句は、言葉の持つ共通のイメージを使って、作者の感性を伝える文芸です。季語は、その共通のイメージを形作る「言葉の約束事」と言えるでしょう。

「林鐘」を「林の鐘」と表現することは、この約束事を破ってしまうことになります。

もし、あなたが「旧暦6月」という季節を詠みたいのであれば、「林鐘」という言葉をそのまま使うのが、最も作者の意図が伝わる方法です。

季語を選ぶことは、言葉の持つ歴史や文化を尊重することでもあります。季語の持つ本来の意味を理解した上で、自分らしい表現方法を探すことこそが、俳句の醍醐味なのです。

参考資料

1) 日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.




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