秋の季語に、雨風に打たれて破れたハスの葉を指す「破蓮(やれはす)」があります。
この関連季語として、「敗荷(やれはす)」という言葉が歳時記に載っていることがあります。 1.2.3.4)
「破」という漢字は「破れる」と読むので、「破蓮」と書くのは自然に思えます。しかし、なぜ「敗れる」と書く「敗荷」という言葉があるのでしょうか?
季語に隠された「戦場の風景」
「敗れる」という漢字は、一般的に「勝負に負ける」「戦に敗北する」といった意味で使われます。
この言葉の謎を解くために調べてみると、ボロボロになったハスの葉の様子を、まるで戦に敗れたかのように見立てて、「敗荷」と表現したという説がありました。 5)
一面に生い茂っていたハスの葉が、風雨にさらされて朽ちていく様子は、まるで激しい戦場を思わせます。
「破蓮」が「ハスの葉が破れている」という物理的な状態を表現するのに対し、「敗荷」は「戦いに敗れたハスの葉」という、より感情的で、想像力をかきたてる表現なのです。
季語を選ぶということ
季語を選ぶことは、言葉のニュアンスを深く理解し、作者の伝えたい情景を正確に表現することです。
もしあなたが秋の句を詠むとき、
- 破蓮:風に打たれ、葉がボロボロになった物理的な情景を表現する。
- 敗荷:ハスの葉の衰えに、人生の敗北や無常観といった哲学的な意味を重ねて表現する。
このように、同じものを指す季語でも、言葉選び一つで、句の世界観は全く変わります。
言葉の背景にある物語や意味を知ることで、あなたの俳句はさらに奥深いものになるでしょう。
参考資料
1)角川書店.(2022).新版角川俳句大歳時記.KADOKAWA.
2)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
3)角川書店.(2019).合本俳句歳時記.KADOKAWA.
4)現代俳句協会.(2004).現代俳句歳時記.学研プラス.
5)榎本好宏.(2002).季語語源成り立ち辞典.平凡社.
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