「雛の絵」とは
ひな祭りの季語といえば、「雛人形(ひなにんぎょう)」を思い浮かべるでしょう。
しかし、歳時記をよく見ると、関連季語に「雛の絵(ひなのえ)」という言葉が載っていることがあります。 1)
「絵」は一年中見られるものなのに、なぜ「雛の絵」は季語になるのでしょうか?
「雛の絵」に隠された、ひな祭りの歴史
「雛の絵」とは、紙や絹などに描かれた雛人形のことです。掛け軸にして床の間に飾ることが多く、「掛雛(かけびな)」とも呼ばれます。
雛人形が庶民に広まる前、人々は絵に描いた雛を飾って、ひな祭りを祝っていました。
また、場所をとる豪華な段飾りを持つことが難しい家庭では、掛け軸に描かれた雛を飾ることが一般的でした。
つまり、「雛の絵」は、ひな祭りの風習そのものを表す言葉なのです。
季語の「ルール」を考える
俳句の世界には、「本物ではないものは季語にならない」という考え方があります。
- 鶴は冬の季語ですが、「鶴の絵」は季語になりません。
- 月は秋の季語ですが、「月の絵」は季語になりません。
なぜなら、「絵」は季節を問わず存在し、作品自体に季節感がないからです。
しかし、「雛の絵」は例外です。ひな祭りのために飾られ、その時期にしか飾られないものだからです。
この「雛の絵」のように、季語には、その言葉の背景にある文化や歴史を理解しなければ分からない、面白いルールが隠されています。
季語を選ぶことは、言葉の持つ意味を深く探求することでもあります。あなたは「雛の絵」に、どんなひな祭りの情景を込めて詠みますか?
参考資料
1)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
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