「茅花ぬく(つばなぬく)」とは
春の季語には、植物の名前がそのまま季語になっているものが多くあります。
その中に、少し不思議な季語があります。「茅花(つばな)」、そしてその関連季語である「茅花ぬく(つばなぬく)」です。 1.2)
「ぬく」は「抜く」という動詞。なぜ、植物の季語にわざわざ「抜く」という動詞がつくのでしょうか?
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「茅花ぬく」に込められた意味
「茅花(つばな)」は、イネ科の植物「チガヤ」の穂のことです。その若穂はほのかな甘みがあり、昔の子どもたちは、この穂を抜いては口に含んで味わっていました。
つまり、「茅花ぬく」という季語は、単に「茅花を抜く」という行為を指しているのではなく、「茅花を抜いて食べる」という、春の風物詩を表現しているのです。
この背景を知らなければ、なぜ「茅花を見る」「茅花を摘む」といった他の行為が季語にならないのに、「茅花を抜く」だけが季語になるのか、その理由が分かりません。
季語の「落とし穴」と「言葉の遊び」
しかし、「茅花ぬく」には、いくつかの注意点があります。
- 現代の言葉ではない: 「茅花を抜いて食べる」という風習が薄れた現代では、この季語が持つ本来の意味が伝わりにくくなっています。
- 他の言葉との混同: 「茅花ぬこ」という、鬼ごっこのような遊びを表す言葉も存在するため、形が似た言葉と誤解される可能性があります。 3.4)
それでも、「茅花ぬく」という季語は、単なる植物の描写に留まらない、人間の営みや文化を詠むことができる、面白い言葉です。
茅花ぬく遠きひかりの中にいて 早川三千代
この句では、「茅花を抜く」という行為を通して、遠い記憶の中にある春の光景が、鮮やかに蘇るような情景が表現されています。
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季語の「探検」を楽しもう
季語を学ぶことは、言葉の持つ歴史や文化を探求する旅でもあります。
歳時記に載っているだけで、音数合わせで季語を使うのではなく、「なぜこの言葉はこうなっているのだろう?」という疑問を大切にしてください。
その探究心が、あなたの俳句をさらに深いものにしてくれるはずです。
ぜひ、あなたも「季語」の深い意味を解き明かしてみてください。
1)角川書店.(2022).新版角川俳句大歳時記.KADOKAWA.
2)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
3)小学館.(2006).精選版日本国語大辞典.小学館.
4)新村出. (1991). 広辞苑. 日本: 岩波書店.
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