「木の芽流し」は春?夏?
季語の中には、少しややこしいものがあります。それは、似た言葉なのに意味や季節が違う季語です。
例えば、
- 茅花流し(つばなながし):茅の花が咲く頃に吹く南風(初夏の季語)
- 筍流し(たけのこながし):筍が芽を出す頃に吹く南風(初夏の季語)
これらは「〇〇流し」という形で、夏の季語として定着しています。しかし、先日「木の芽流し(きのめながし)」という季語があるのを知り、調べてみると、辞書によって季節と意味が違っていました。
- ある辞書は「夏の季語」で、「木の芽どきに吹く湿った南風」 1)
- 別の辞書は「春の季語」で、「早春に降る長雨」 2)
一体どちらが正しいのでしょうか?
「木の芽流し」に隠された、島の気候
この言葉の謎を解く鍵は、「屋久島」にありました。
「木の芽流し」は、屋久島で「菜種梅雨(なたねづゆ)」を指す言葉です。 3)
屋久島では、本土より早く春先に梅雨のような長雨が降ります。この時期、ちょうど木の芽が芽吹くことから、この雨を「木の芽流し」と呼ぶようになりました。つまり、
- 「木の芽流し」の「流し」は、雨。
- 「茅花流し」や「筍流し」の「流し」は、風。
というように、同じ「流し」という言葉でも、指すものが全く違うのです。
季語の「言葉選び」を楽しむ
季語を選ぶときには、言葉の響きだけでなく、その言葉が持つ背景や、地域性を理解することが大切です。
- 茅花流し、筍流し:初夏に吹く、南風の情景を詠む季語
- 木の芽流し:屋久島の春、木の芽が芽吹く頃に降る、長雨の情景を詠む季語
このように、季語一つで、句の世界観は大きく変わります。さあ、あなたも言葉の持つ背景にまで想いを馳せながら、俳句を詠んでみませんか?
参考資料
1)日外アソシエーツ.(2015).俳句季語よみかた辞典.日外アソシエーツ.
2)講談社 編集.(1982).日本大歳時記 : カラー図説 春.講談社.
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