「俳句で形容詞を消す」8つテクニック

俳句は、五七五の限られた音数で、奥深い情景や感情を表現する日本の伝統的な詩です。
そんな俳句を詠む際、「美しい」「寂しい」といった形容詞を使って、伝えたい気持ちをストレートに表現したくなることがあります。
しかし、実は俳句の世界では、できるだけ形容詞を使わない方が良いとされています。
なぜなら、形容詞は作者の主観的な感情を直接的に示してしまうため、読者の想像力を限定してしまうからです。例えば「美しい桜」と表現すると、読者それぞれの「美しい」という感覚が薄れてしまう可能性も高まります。
それよりも「朝日に染まる桜」のように具体的に描写した方が、鑑賞者はより鮮明な情景を思い描き、作者が伝えたい美しさを深く感じ取ることができます。

この記事では、俳句で形容詞を使ってしまった時に、どのようにそれを直し、より魅力的な句へと昇華させるか、具体的な8つの方法をご紹介します。



俳句で形容詞を避けるべき理由

具体的な直し方に入る前に、そもそもなぜ俳句で形容詞を避けるべきなのか、その理由を改めて確認しましょう。

読者の想像力を最大限に引き出すため

形容詞は、作者が抱く感情や印象を直接的に示します。
しかし、俳句は短い言葉を使って、読者の想像を刺激し、情景を広げることを重視します。
形容詞を避け、具体的な描写をすることで、読者はより深く句に入り込み、自分なりの「美しい」や「悲しい」を感じ取ることができます。

客観的な描写で情景を鮮やかに伝えるため

俳句は、作者の感情を直接的に表現するよりも、目の前にある具体的な情景や事物を客観的に切り取る表現が向く文芸といえます。
「寒い朝」と作者の感情を含める代わりに、「霜柱」や「吐く息の白さ」といった具体的な描写を用いることの方が、読者はその情景から「寒さ」を肌で感じるように受け取ることができます。
主観的な形容詞を減らすことで、情景がより鮮明に、かつ客観的に伝わります。

簡潔で力強い表現を追求するため

俳句は極めて短い詩形式です。そのため、一つ一つの言葉が持つ意味や響きが非常に重要になります。形容詞は時に表現を冗長にしてしまうことがあります。無駄を削ぎ落とし、名詞や動詞、比喩などを巧みに使うことで、より簡潔でありながらも力強く、そして印象深い句が生まれるのです。

では、形容詞を使ってしまった場合、どのように修正すれば良いのでしょうか。具体的な8つの方法を見ていきましょう。


形容詞を「俳句の言葉」に変える!8つのテクニック

具体的な描写で、間接的に感情を伝える

形容詞で直接感情を述べる代わりに、その感情を引き起こす具体的な情景や状況を描写します。
例えば、「寂しい夜」と書く代わりに、「寂しさを感じさせた状況」と描写します。
「寂しい夜」だと感じた理由が「いつもより静かな夜だったから」ならば、そちらを書きます。


【例】
秋扇 寂しい夜の 御影堂
    ↓
秋扇 静かな夜の 御影堂  


「寂しい夜」だと感じた理由が「今日は、2人ではなく1人だから」ならば、そのように書きます。
【例】
秋扇 寂しい夜の 御影堂
    ↓
秋扇 今宵一人の 御影堂 

形容詞で「寂しい」「悲しい」「美しい」と書くのではなく、「寂しい」「悲しい」「美しい」と感じさせた状況や理由なりを書くようにしましょう。


具体的な名詞で情報を補う

抽象的な形容詞ではなく、より具体的な名詞を用いることで、伝えたいイメージを明確にします。
例えば、「大きな家」と書く代わりに、「三階建ての家」と名詞を使うことで、読者にイメージをより鮮明に伝えることができます。

【例】
お隣は 大きな家や 竹の秋
    ↓
お隣は 三階建てや 竹の秋  


「大きな家」と書く代わりに、「豪壮な家」と様子を伝える名詞を使うことで、建物の構えも伝えることができます。

【例】
お隣は 大きな家や 竹の秋
    ↓
お隣は 豪壮な家 竹の秋 

形容詞で「大きい」「小さい」「広い」と書くのではなく、「大きい」「小さい」「広い」様子を伝える名詞を使うことで、より具体的になります。
今回は「大きな家」を「豪壮な家」と書き換えましたが、この「豪壮」という単語は、類語辞典で探すことができます。
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3.動作や行動を通して感情を示す

感情を直接表現するのではなく、人物や自然の具体的な動作・行動を描写することで、感情が自然と伝わるようにします。
例えば、「楽しむ子供」と書く代わりに、「笑い声を響かせる子供」というように、「喜び」を動作で表現することで、読者に具体的な情景を伝えることができます。

【例】
たくさんの 楽しむ子供 昼の川
    ↓
笑い声 響かす子供 昼の川

「楽しむ子供」と書く代わりに、「飛び込む子供」と行動を書くことで、子供の生き生きした様子が具体的に伝わります。
【例】
たくさんの 楽しむ子供 昼の川
    ↓
声を上げ 飛び込む子供 昼の川

「楽しい」「嬉しい」と感情を書くのではなく、その時の動作や行動を書いたほうが、間接的に「楽しさ」「嬉しさ」が伝わり、具体的な情景を読者に伝えることができます。

副詞で形容詞を具体的にする

形容詞は曖昧な言葉ですが、その形容詞を副詞で修飾することで、具体性が増します。
例えば、「小さい」という形容詞であれば、「とても小さい」と副詞+形容詞にすることで、具体性が増します。

【例】
山道に 小さな菫 咲きしかな
    ↓
山道に とても小さな 菫かな  

「小さい」と書く代わりに、「いまだ小さい」と書くことで、時間の経過なども想像できる言葉になります。

【例】
山道に 小さな菫 咲きしかな
    ↓
山道に いまだ小さな 菫かな 

形容詞で「小さい」「狭い」などと書く場合は、「とても小さい」「いかに小さい」「いきなり狭い」「いずれ狭く」というように副詞+形容詞とすることで、より具体的な情景になります。


比喩表現を使う

抽象的な概念を、具体的なものに例える比喩表現を用いることで、読者の想像力を刺激し、豊かな表現にします。
例えば、「美しい夕焼け」と書く代わりに、「焼けるような夕焼け」といった比喩を用いることで、より鮮明な映像が浮かびす。

【例】
美しい 夕焼けの町 今日去りぬ
    ↓
去る町は 燃えだすような 夕焼けに  

「美しい夕焼け」と書く代わりに、「炎のような夕焼け」と書くことで、夕焼けの激しい赤さの様子も伝えることができます。

【例】
美しい 夕焼けの町 今日去りぬ
    ↓
炎めく 夕焼けの町 今日去りぬ  

比喩を用いることで、抽象的な概念を具体的なイメージに置き換え、表現を豊かにすることができます。


数値や情報で客観的な事実を示す

感情や規模を客観的に示すために、具体的な数値や情報を用いることも有効です。
例えば、「たくさんの鳥」と書く代わりに、「千万の鳥」と数値を使うことで、具体的に読者はイメージを想像することができます。

【例】
たくさんの ヒヨドリ入れる 大樹かな
    ↓
千万の ヒヨドリ入れる 大樹かな  

「暗い色のヒヨドリ」と書く代わりに、「灰色のヒヨドリ」と情報を書いたほうが、より鮮明な情景を伝えることができます。

【例】
薄暗い 色のヒヨドリ 空を飛ぶ
    ↓
灰色の ヒヨドリ空を 埋めつくす

形容詞で「たくさん」と曖昧に書くより、数値で「千羽」と書いたほうが具体的です。
形容詞で「暗い色のヒヨドリ」と曖昧に書くより、情報として「灰色のヒヨドリ」と書いたほうが具体的になります。
曖昧な表現の形容詞より、数値や情報で客観的な事実を示すことで、説得力を高めることができます。



五感に訴える表現で臨場感を出す

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚といった五感に訴えかける言葉を選ぶことで、読者は情景をよりリアルに感じ取り、その中に込められた感情も受け止めやすくなります。
例えば、「寒い風」と書くかわりに、「頬を刺すような風」と触覚に訴える描写をすることで、具体的な状況が読者に伝わります。

【例】
寒い風 吹き続けたる 冬の海
    ↓
頬を刺す ような烈風 冬の海

「寒い風」と書く代わりに、「耳をつんざく風」と聴覚に訴える描写をすることで、より鮮明な情景を伝えることができます。

【例】
寒い風 吹き続けたる 冬の海
    ↓
冬の海 耳をつんざく ほどの風

形容詞で「寒い」「冷たい」と書くのではなく、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚訴えかける言葉を選びましょう。


形容詞を名詞化してニュアンスを込める

形容詞の語尾を「さ」に変えることで、形容詞を名詞として表現する方法です。
直接的な感情表現を避けつつ、その感情の存在や程度を伝えることができます。
例えば、「新しい」という形容詞を「新しさ」と名詞化することで余韻を持たせることができます。

【例】
あたたかや 父の墓石の 新しい
    ↓
あたたかや 父の墓石の 新しさ 

「眩しい」という形容詞は「眩しさ」と書くことで、名詞化できます。

【例】
眩しくて 人影のなき 初夏の海
    ↓
眩しさは 人影のなき 初夏の海


語尾を「さ」にするだけですので、今回紹介した中では、一番簡単な方法といえるでしょう。

まとめ

俳句において形容詞は避けるべきだという考え方が強くあります。
そうなると、「悲しい」「美しい」といった感情表現はどうすればいいのか、と悩む人もいるかもしれません。

今回の記事は、形容詞を使わなくても、具体的な描写や動作、五感に訴える表現、比喩などを巧みに用いることで、より効果的に情景や感情を伝えらる、8つのテクニックでした。
これらの方法をマスターすると、俳句を作る上での強力な武器となり、表現の幅を大きく広げてくれるでしょう。



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