季語の「秋の隣」が季語にならないとき

 

「秋隣(あきとなり)」という季語があります

秋が近くに来ている、秋が隣まで来ている、という意味で晩夏の季語です

 

この「秋隣」の関連季語として「秋の隣(あきのとなり)」があります 1

 

「滑稽雑談」には、「秋の隣というのは、近いという心だ」とは書かれていますが 2

「秋隣」ではなく「秋の隣」というように、助詞の「の」を入れると2つの意味が生じてしまい

一方は季語で無くなってしまうので注意しましょう

 

「秋の隣」の2つの意味

 

① 夏から秋に移る、変わりめの時期。秋隣。《季・夏》

② 秋から冬に移る、変わりめの時期。

 

小学館.(2006).精選版 日本国語大辞典.小学館.

①は季語ですが、②は季語ではありません

また、季節も違うことにも注意しましょう

 

①と②にはそれぞれ、和歌での使われ方が掲載されていたので、紹介します

 

①は「こよひしもいなばの露のおきしくは秋のとなりになればなりけり」

②は「垣根なる草も人目も霜かれぬ秋のとなりや遠ざかるらん」

 

①は「秋のとなりになれば(こそ)」というように、「秋の隣」の後に続く文脈が、晩夏であることを暗示させています

②には暗示はありません。「秋の隣」とそのまま言っているので、一般的な意味の「秋から冬に移るころ」や「秋から見て冬」ということになります

 

つまり

①の和歌は「秋となり」という言葉の後に「~になればこそ」という言葉がついているからこそ、「秋となり」という意味の言葉となり、夏の季語として成立します

単独で「秋の隣」を使っても、現在では②の「秋から冬に移る、変わりめの時期。」というようにとられてしまい、季語としては成立しません。単独で使い、季語として成立をさせるのでしたら「秋の隣」ではなく、せめて「秋が隣(になる)」のようにしなければ、晩夏から詠んでいることが分からないでしょう

 

 

「秋の隣」を使うときは注意をしてください

「秋の(が)隣になればこそ~」

「秋が隣(になる)」

というように、晩夏から見ていることが分かるように表記をした方がよいでしょう

 

 

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1)角川学芸出版.(2006).角川俳句大歳時記.角川書店.

2)四時堂其諺 編.(大正6).滑稽雑談 第1.国書刊行会.

 




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