囀りをこぼさじと抱く大樹かな

星野立子(ほしのたつこ)は高浜虚子の次女。
写生句の精神を受け継ぎながらも、女性らしい繊細な感性で日常を切り取った作家。

囀りをこぼさじと抱く大樹かな


〇旧仮名部分
「こぼさじ」は「零さないようにしよう」という意志や配慮を含んだ表現。
切れ字は「かな」で、意味は「・・・だなあ」


〇句意
春の光の中、鳥たちの賑やかな囀りが聞こえてくる。ふと見上げると、そこには天を覆うような大樹が立っている。その枝ぶりは、まるで鳥たちの愛おしい歌声を一滴も零すまいと、優しく抱きしめているかのようだ。


〇季語
囀り(さえずり)/ 春


句の魅力

「音」を「抱く」という独創的な比喩

本来、形のない「音(囀り)」を、「こぼさないように抱く」と表現した点が、類まれなるセンスを感じさせる。
「抱く」という比喩を出すのも難しいが、「こぼさないように」という比喩はなお難しい。どのように、この言葉を探したのかと思う。

季語のセンス

ここで使われている季語は「囀り(さえずり)」

「囀り」は鳥たちの求愛の歌であり、命の輝きそのもの。
それを大樹が丸ごと包み込んでいるという視点が、読者の心に温かな手触りを与える。

言葉の省略が生む「映像美」

この句には「枝」という言葉は一度も出てこない。しかし、「抱く」という一語によって、四方に力強く、かつしなやかに伸びた大きな枝ぶりが、ありありと脳裏に浮かぶ。
もしここで「枝が囀りを受け止めている」と書いてしまえば、散文に近い俳句になってしまう。
「抱く」と言い切ることで、説明を排し、詩情を際立たせている。

大樹に宿る「母性」

「こぼさないように」という繊細な配慮、「抱く」という慈しみの動作によって、大樹を単なる植物ではなく、すべてを包み込む「母」のような存在として捉えることができる。
春の生命力溢れるエネルギーを、大きな愛で守り育むような、多幸感に満ちた一句。

星野立子について

1903年11月15日生まれ
主宰誌『玉藻』を創刊
同時期に活躍した中村汀女・橋本多佳子・三橋鷹女とともに四Tと称された

星野立子の代表作

ままごとの飯もおさいも土筆かな
美しき緑走れり夏料理
雛飾りつつふと命惜しきかな
蓑虫の留守かと見れば動きけり
大佛の冬日は山に移りけり
絵巻もの拡げゆく如春の山
障子しめて四方の紅葉を感じをり

星野立子の句集

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各巻の構成(全6巻)

第二巻以降は、俳句だけでなく活動の足跡を辿る内容が充実しています。

巻数内容特徴
第一巻 俳句 (1) おすすめ。
立子の主要な句集を網羅した作品集。
第二巻俳句 (2)句集のほか、結社の歩みや吟行の記録などが充実。
第三巻俳句 (3)未収録の句など、さらに深い作品群を網羅。
第四巻俳文散文や日記的趣向の文章を収録。
第五巻鑑賞・句評 他者の句に対する鋭い選評や鑑賞文。
第六巻雑纂書簡や年譜、その他貴重な資料。

補足:第二巻について

第二巻にも作品は掲載されていますが、どちらかといえば「立子がどのように俳句と向き合い、結社(玉藻)を運営していたか」という、活動の記録や背景解説に重きが置かれています。
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