夕焼は膳のものをも染めにけり
〇句意
夕焼けは、山や川だけでなく食膳の料理も染めた
〇季語
夕焼け(ゆうやけ)/晩夏
日没のころ、西の地平線に近い空が赤く見える現象
〇文法
「をも」
格助詞「を」に、係助詞(強調)の「も」をつけたもの
意味は、「〜までも」「〜さえも」
「にけり」
完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」+ 詠嘆(感動)の助動詞「けり」
意味は、「〜してしまったなぁ」「〜したことだよ」
俳句でよく使われる切れ字
句の魅力
夕焼は膳のものをも染めにけり
中七の魅力
中七の「膳のものをも」という表現に、魅力を感じる。
単に「夕焼けが膳を染めた」という表現でも、夕暮れの光景や食卓の手触り感は伝わる。そのため、同じ景で俳句を作ろうとしたら、「夕焼けが膳を染めた」で作り終えてしまうのが普通ではないか。
しかし作者は、そこから踏み込んで「膳のもの」とすることで、並べられた料理の一品一品が夕映えに染まっていく景を鮮やかに浮かび上がらせている。
さらに見事なのは、「ものをも」という助詞の重ね方。
「〜をも」と表現したことで、赤く染まる対象が外の山河もほかに、いま自分の目の前にあるささやかな夕餉(ゆうげ)の空間にまで及んでいるという、空間の広がりを生んでいる。
「膳」の言葉選び
本来、「膳」という言葉には料理という「行為」や「時間」のニュアンスも含まれるため、単なる物質を超えた日常のひと時そのものが光に包まれていくような、新鮮な驚きを読者に与える。
作者の視点に立てば、大いなる自然の美しさが、自分自身のつつましい生活をも優しく包み込んでくれている。そんな静かな感動が伝わってくる。
季語の良さ
季語の選択も絶妙だと感じる。
「膳を染める」という実景だけであれば、「西日」を選べばよいが、「西日」だと説明的な句になる。
ここを「夕焼け」にすることで、大きな色彩の広がりが食卓を包むという、情景までも句にもたらしている。
富安風生について
1885年(明治18年)4月16日 – 1979年(昭和54年)2月22日
高浜虚子に師事
俳誌「若葉」の主宰
昭和期を代表する俳人。自然の美しさや季節の情感を詠んだ句が多い。
富安風生の代表作
よろこべばしきりに落つる木の実かな
まさをなる空よりしだれざくらかな
一生の楽しきころのソーダ水
よろこべばしきりに落つる木の実かな
何もかも知つてをるなり竈猫
古稀といふ春風にをる齢かな
母の忌やその日のごとく春時雨
生くることやうやく楽し老の春

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