「翡翠の影こんこんと遡り」 鑑賞

川端茅舎の代表作

翡翠の影こんこんと遡り


読み
翡翠の 影こんこんと 遡り
かわせみの かげこんこんと さかのぼり


〇句意
夏の河原にいると、川下から川上に向かって翡翠(カワセミ)の影が走り去っていった


〇季語
翡翠(カワセミ) / 夏





句の魅力

静寂の中に、動的かつ立体的な映像を脳裏に再生させる点が秀逸。

主役を「影」にしている妙味

鮮烈な青さを持つ翡翠(カワセミ)そのものではなく、その「影」を捉えたことで、周囲の空間に凛とした静けさが際立つ。
鳥そのものを描かないことで、かえってその影が水面や緑の葉の上を滑らかに滑ってゆく様子が、鮮やかに脳裏に浮かぶ。


「遡り」という一語の選択

この句では、カワセミが「上流へ飛び去る」といった説明的な言葉は使っていない。
「遡(さかのぼ)り」というたった一語の選択で、カワセミが下流から上流へ向かって飛び去る様子を、瞬時に理解させている。
言葉の選択が参考になる。

擬音語「こんこんと」の秀逸さ

普通、影の動きを描くときには「静かに飛び去る」「音なく飛び去る」といった形容で済ませたり、擬音を使うとしても「すーっ」という滑らかな音を選んでしまうのではないか。
この句では、「こんこんと」という音の繰り返しを選択していて、これがこの俳句の要になっている。
ほかの言葉はないというくらい、必然的な力強さをもっている。



俳句の限界を超える映像

「こんこんと」という表現によって、飛び去る様子が動画となって脳裏に浮かぶ。
ひと羽ばたきで影がぐっと推進し、一瞬止まって、また進む。
川の上流へ向かって何度も繰り返し進んでいくリズム感がある。
多くの俳句が1〜2秒の「静止画(一瞬の切り取り)」にとどまるのに対し、この句は「進んで、止まって、また進む」という連続性の動画。
適切な擬音語の選択によって、読者の脳裏に、長く、立体的で、息をのむほど美しい動画を再生させることに成功している。

川端茅舎について

1897 – 1941年〈生没年〉
東京都出身の日本の俳人
自然を詠んだ美しい俳句が多く残した


川端茅舎の好きな句

一枚の餅のごとくに雪残る
しんしんと雪降る空に鳶の笛
河骨の金鈴ふるふ流れかな
蛙の目越えて漣又さざなみ



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